負荷をかけ、集中して自分を追い込むことで得られるフロー、さらには稀に起こる「ゾーン」といった状態に到達する上で障害になることの一つは、自分の能力をフルに発揮することを恐れる「ヨナのコンプレックス」(https://en.wikipedia.org/wiki/Jonah_complex )だろう。

高度に集中したフローやゾーンにおいて、高速の処理が行われている状態は、一種の「意識の変性状態」(altered states of consciousness)である。その状態における「自分」は、普段の「自分」と違う。つまり、高度な集中とは、新しい自分になることでもある。

モーツァルトが一瞬のうちに全曲を構想してしまう、というような状態が意識の変性状態である。そのような状態において人は最大の能力を発揮し、もっとも創造的になるが、それは同時にふだんの自分と違う自分になってしまうことでもある。

旧約聖書のヨナについての記述に基づく「ヨナ・コンプレックス」は、自分の能力をフルに発揮して自分が変わってしまうことを恐れるコンプレックスである。能力を発揮せずに、凡庸のままでいた方が、自分が変わらなくて済むから安心できる。フローやゾーンから逃げてしまう。

フローやゾーンに達することを目指す創造者やアスリートは、今までの自分と異なる自分へのステップを上がることの恐怖を克服しなければならない。そのためには、脳の中で制限をかけているリミッターを外してあげることが必要になる。

ヨナ・コンプレックスを乗り越える上でもっとも鍵となるのは、自分自身で自分への負荷を調整することである。現在の自分に無理のない範囲で負荷を高めるノウハウを自分の中で持つことで、人は、怖れを超えて、より高いレベルでのフロー、ゾーンを経験し、自分を変えることができるのである。