最近の東京は、すっかりアカボシゴマダラだらけになってしまった。これは、子どもの頃から蝶を追いかけてきたものにとっては、かなり驚異的な「変化」である。世の中は、思いもかけないかたちで面目を新たにするものだなあと感じる。
一般の方にとっては大したことではないと思うけれど、蝶好きは、周囲で飛んでいる蝶の種類が変化するといったことに、まるで世の中で革命が起こったような印象を受けてしまうのである。
子どもの頃、アカボシゴマダラと言えば、日本では奄美大島の特産種に決まっていた。関東にいる蝶はゴマダラチョウであり、羽に赤い星のあるアカボシゴマダラは、まだ見ぬ、幻の蝶だった。
それがいつの頃からか、東京近辺でもアカボシゴマダラが発生しているらしいという「噂」が入り始めた。あちらこちらで目撃されているらしい。元々は奄美大島以外の産地から人為的に持ち込まれたものという説もある。
生まれて始めて東京のアカボシゴマダラを見た時の衝撃は忘れられない。
ランニング中だった。やたらと白い蝶がゆったりと飛んでいるなあ、と思った。赤い星は余り目立たなかった。それが、アカボシゴマダラだったのである。
私は、子どもの時からありとあらゆる蝶を見ているから、「動体視力」が発達している。飛んでいる姿を見てその蝶の種類がだいたいわかるのである。
しかし、その、白い印象のゆったりと飛ぶ蝶が何なのかよくわからなかった。ひょっとしたら、と追いかけてその蝶がとまるのを待った。とまった姿を確認すると、やはりアカボシゴマダラだった。
生まれて初めてアカボシゴマダラを見た、その興奮と感激は忘れることができない。「あり得ないこと」が起こっているように感じたのである。
そのアカボシゴマラダ、本当に普通に見るようになった。
ある時、四ツ谷駅付近を歩いていたら、ふわっと白い姿が見られた。アカボシゴマダラだった。こんな都心にまでと驚いたが、案外強い生命力を持っているのかもしれない。
何しろ定着してからまだ日時が経っていないので、アカボシゴマダラの行動などに対する「感覚知」ができていないのだが、ゴマダラチョウとはだいぶ様子が違うようにも見える。どちらかと言えば、毒のあるマダラチョウ類に擬態しているようにも感じられる。
アカボシゴマダラの食草はエノキであり、ゴマダラチョウと重なる。そのこともあって、生態学的にはある程度の競合が見られる可能性もある。