蝶と蛾と言えば、一般の方には、なかなか区別がつきにくいらしい。
 
 私は、子どもの頃から蝶を追いかけていたので、蝶と蛾の区別は、いわば英語のネイティヴ・スピーカーのように身体に染み付いている。

 例えば、羽を広げてとまるのが蛾で、羽を閉じてとまるのが蝶である。蝶は昼間に活動して、蛾は夜に活動する。ぎゅっとしまった棍棒のような触覚を持っているのが蝶で、わさわさと毛が出ているのが蛾である。 

 このように書くと、蝶と蛾の区別ははっきりしているようにも思えてくるが、実際にはそうでもない。

 羽を広げてとまる蝶もいる。アカタテハやルリタテハのようなタテハ類がそうだし、ミドリシジミなどのいわゆるゼフィルス類も、羽を広げてとまることがよくある。

 ややっこしいことに、これらの蝶は、羽を閉じてとまることもよくあるので、確かに混乱しやすい。

 蛾が夜活動するというのも例外があり、昼間飛んでいる蛾もある。代表的なのは、オオスカシバであったり、ホタルガであったりする。

 子どもの頃、あっ、蝶が飛んでいる! と思って追いかけてみると、実は蛾だったということがよくあった。ずいぶんと慣れている人でも、蝶と蛾の区別はなかなか難しいことがある。とりわけ、林間をチラチラと飛ぶ小型の蛾が、シジミチョウと間違えやすい。

 一般の方々の中には、実際には蝶なのに蛾だと思っているケースが多くて、私は子どもの頃から「あれって蛾でしょ?」と言われるのに慣れていた。その度に私はなぜかむっとして、「あれは蝶に決まっているでしょ!」と答えてきた。

 そのような腹立ちの背後には、蛾よりも蝶の方が華やかで「上」だというような思い込みがあったのかもしれない。だとしたら、蛾に悪かったと思う。反省することしきりである。

 蝶の中で、蛾に間違えられやすいのはなんといってもジャノメチョウやヒカゲチョウの類で、これらは誰がどうみても立派な蝶であるが、一般の方々は多くの場合蛾と思っているだろう。また、セセリチョウも、飛び方は活発で明らかに蝶だが、姿が茶色くて地味なので蛾だと思っている方がしばしばいる。

 意外なのは、ヒョウモンチョウの類で、これなどは誰がどうみても蝶なのだけれども、色味の影響なのか、蛾だと思いこんでいる方が時々いらっしゃる。

 最近、温暖化で東京都内でもだいぶ個体数が増えてきたツマグロヒョウモンなどは、蛾だと思っている方がたくさんいるかもしれない。確かに、童謡「ちょうちょう」に出てくる「菜の葉にとまれ」の優雅な世界とは少し違う風合いであることは間違いない。

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写真は小学校5年生の著者。