大変なことになってきてしまったな、というのが正直な感想である。将棋の三浦弘行九段が、今週末(10月15日、16日)の竜王戦に出場されないことが決まったという。挑戦者に決定していたのに、直前になって将棋連盟がそのような決定をした。

三浦弘行九段は、羽生善治さんが七冠を誇っていた時に、羽生さんを破って一角を崩した方。今回の竜王戦は、タイトル戦としては賞金額が最高で、名人戦と並んで格が高い。その竜王戦の挑戦者が、直前になって変更されるというのは、異例の事態である。

その理由は、三浦さんが対局中に中座することが多く、スマホなどでの将棋ソフトの使用が疑われたことだという。指し手が、ソフトの回答と一致する傾向があったとも言われる。三浦さんは否定されているし、信じたいけれども、パンドラの箱が開いてしまった印象もある。

大川慎太郎さん @00lll による今年屈指の名著『不屈の棋士』(講談社現代新書)に活写されているように、棋士たちは、今、AIの台頭と格闘している。その中で、将棋に対する向き合い方が、少しずつ変質してきている。

『不屈の棋士』である棋士の方が発言されていて印象的だったのは、人間相手の棋戦は、相手の調子などもあるから、それよりも将棋ソフトの評価値を参照して自分で研究した方が棋力が上がる、という考え方まで出てきていることである。

衝撃的だったのは、タイトル戦は、相手の調子によって「たまたま」とれてしまうこともあるから、それよりも、実力を定量的に評価できるレーティングや、評価値の方が価値がある、というような考え方まで台頭していることだった。人工知能が、将棋を内面から変えようとしている。

今回、三浦さんは不正はされていないと信じるし信じたいが、それよりも、人工知能の発達によって、将棋の棋士たちの内面が変質していることの方が、将棋界にとっての重大な転機であり、ある意味では危機なのではないかと、私は考える。

先日羽生善治さんとお話した時、羽生さんは将棋のソフトは相変わらず使わないとおっしゃっていた。以前からそう言われていたけれども、今や将棋界では少数派なのではないか。人工知能に対する態度としては、一つの立派な態度なのだと思う。

一方、棋力を上げるために、普段からソフトを駆使する棋士たちもいらして、そのような棋士たちの指し手は、すでに変貌しているとも聞く。今回の竜王戦の事態は衝撃的だが、変化は、すでに潜行して将棋界を席巻しているとも言える。

今、来年行われる人工知能との対決(電王戦)の挑戦者を決める叡王戦が進行中である。 http://www.eiou.jp/  羽生善治さんも出場されていて、もし、羽生さんが挑戦者になると、いよいよ、人間と人工知能の頂上対決が実現することになる。

人工知能の台頭は、人間のすべてにとって、他人事ではない。果たして、羽生さんが電王戦に出られた時、人工知能との対決はどんな結果になるのか。将棋界の方々は、炭鉱のカナリアのような存在に思えて、胸が熱くなる。

 連続ツイート