最近は、日本語の本を読む時間があまりとれなくて、目を通す本が限られてしまう。

大川慎太郎さんの『不屈の棋士』 (講談社現代新書) も、山積みになっている未読本の一つとして、しばらく眺めていたのだけれども、背表紙が呼んでいる気がして、つい手にとった。

まとめて読む時間がとれないので、トイレに置いて、座る度に読み継いで、今朝読み終えた(大川さん、すみません。。。。)

結論を言えば、素晴らしい本だった。すべての人が読むべき、名著だと思う。

人工知能の発達によって、人類がどのような状況に置かれるのか、失業は、人間のアイデンティティは、矜持は? という諸問題を、一番最初に受け止めているのが、実は将棋の棋士たちである。

将棋の棋士たちは、いわば、「炭鉱のカナリア」なのだ。

神は、細部に宿る。人工知能と人間の「闘い」あるいは「共生」について、考えるべき論点が、この一冊の中にたくさん詰まっている。将棋のソフトを使う、使わない、使うとしてどのように使う、そのような「決断」を迫られている棋士たち。人工知能が、根底から変えつつある、将棋世界。その中で、棋士たちは、どのように向き合い、人間の新しい可能性(もしそれがあるならば)を切り開こうとしているのか。

丹念なインタビューで構成された本書は、著者の主張や見解は最小限に抑えられているが、だからこそ、全体から見える景色は、荘厳で、まるでひとつのシンフォニーを聞いているかのようだ。

闘い続ける人間の姿に、種としての誇りさえ感じた。

 あまりにも心を動かされるポイントが多すぎて、トイレに座りながら、私は、あちらの頁、こちらの頁と折りながら読み、結果として折り目だらけの本になってしまった。

大川さんが書かれているように、この「闘い」は、現在進行形でもある。

将棋で起こっていることが、これから、弁護士や、医者や、教育者や、さまざまな職業で起こる。 

ぼくは、魂が震撼すると同時に、人類の甘美な未来をも夢見ずにはいられなかった。

それでも、それだからこそ。