シャーリーの携帯電話が鳴った。

 「はい。はい。えっ、そうなの?」

 シャーリーは、立ち上がって、部屋の中を歩きまわりながら、時折、両腕を振り回している。

 「わかった。ジョーに、すぐに車を回すように言って。そう。ビリーのところ。お願いね。」

 電話を切ったシャーリーの目が、光っている。

 「見つかったわよ。」

 「誰が?」

 ビリーが、眉毛を上げて言った。

 「少女よ。トムが、トマス・アクィナスが、誘惑されたけれども、拒絶した、その少女が見つかったのよ!」

 ジャックは、思わず、「なんと・・・」と声を上げた。トムは、この状況においても、表情に何の変化も現れない。 

 「それは、確かな話なのかい?」

 ビリーは疑問のようだった。

 ジャックも、ビリーに続いた。

 「トムのことは、いろいろ話題になっているから、そういう妄想にとらわれる少女も出てくるかもしれない。」

 シャーリーは、自信たっぷりだった。

 「彼女、ブログを書いているのよ。数年前から。自分は、トマス・アクィナスを誘惑した少女の生まれ変わりで、残された課題を解決するために、トマス・アクィナスの生まれ変わりを探していると。」

 ビリーは、眩しそうに目を細めた。

 「トム、君はその少女のことを知っているのかい?」

 トムは、首を横に振った。

 「その少女は、どこにいるんだい?」

 シャーリーは、もはや爆弾を落とすような勢いだった。

 「ニュージャージーよ。ジョージ・ワシントン・ブリッジを渡れば、すぐよ。17歳。名前は、メリッサ・ゴードン。」

 「メリッサ」という名前を聞いて、トムは、一瞬身体をびくっと震わせたように見えたが、それも、動揺したジャックの勘違いだったのかもしれなかった。