ジャックと目を合わせて笑ってから、ビリーは、「しまった」という顔をした。
シャーリーが言う、「やらかした」というのが一体何のことなのか、まだわかっていない、ということに気づいたのだろう。
ビリーは、シャーリーの顔を見た。しかし、彼女も笑っているようだ。
ジャックは、周囲を見回してみた。
そして、なんということだ、トムも笑っている。
今朝は、まるで、世界中が笑っているかのようだ。
「ジャックは、いったい、何をやらかしたんだい?」
ビリーは、ようやく、シャーリーに聞いた。
「これよ、これ!」
「シャーリーは、彼女のバッグから、タブレット端末を取り出すと、スワイプしてスイッチを入れた。
画面に、「ニューヨーク・インサイド・アウト」というロゴが見えた。ジャックは、思わず、首をすくめた。
ビリーとトムが、画面を覗き込んでいるが、ジャックには、そうする必要がない。
なぜならば、「ニューヨーク・インサイド・アウト」は、ジャック自身のブログだからだ。
「奇跡をもたらしたのは、生まれ変わり」
シャーリーが、大きな声で、最新のエントリーのタイトルを読み上げる。
続いて、シャーリーは、本文も読んだ。ビリーとトムは、興味深そうに聞いている。
ジャックには、それを聞く必要はない。なぜなら、ついさっき自分が書いてアップロードした、まさにその文章だからだ。
「何事も散文的な現代ではあるが、時に、奇跡は起こるのである。実際、最近も、****と****夫妻の行方不明になっていた娘が発見された。発見のきっかけは、伝説の写真家、ビリー・カニンガムによる一枚だった。この中で、少女は一人の男に風船を渡している。
この風船を渡された男は、一見普通の市民に見えるが、そうではない、ということを、このブログの著者は明らかにすることができる。この男、トム・マックニールは、最近、ある神学校から破門された。それも、仕方がないのかもしれない。トムは、特別な主張を持っているからだ。つまり、自分が、トマス・アクィナスの生まれ変わりであるという主張である。」