シャーリーが、コーヒーを飲み終えて慌ただしく出ていくと、後にはビリーとジャック、そしてトムが残された。

 丸テーブルに座っていると、なぜか、「共通の被害者」とでもいうべき一体感が生まれて、それがジャックには、少しおかしかった。

 「で、どうする?」

 ビリーが、ジャックの肘を突いた。

 「やるしかないんじゃないかな。シャーリーが言うことだから。」

 トムの表情からは、この一連の展開をどう受け止めているのか、読み取ることができない。

 「トム、一つ、ストレートに聞いていいかい。」

 ビリーが、トムの顔をまともに見て、言った。

 「ああ、もちろん。」

 トムの目には、尊敬の光が宿っていた。

 「君は、その、かつてトマス・アクィナスだった時に、君を誘惑しようと君のところにやってきた少女の顔を、はっきりと覚えていると言ったよね。」

 「ええ。」

 「また会ったら、わかると。」

 「そうです。」

 「それじゃあね、先日、君が公立図書館の前で会った、風船の少女は、違うのか?」

 ビリーは、瞬きもせず、トムを見つめていた。この写真家は、被写体を見る時には、このような、獲物を射る猛禽類のような表情を普段からしているのだろう。

 トムが答えるまでには、少し間があったが、回答ははっきりとしていた。

 「違います。」

 ジャックには、面白い思いつきがあった。トムに質問しながら、少し笑ってしまって、そのことを、後から後悔した。

 「じゃあ、シャーリーは?」

 「違います。」

 トムは間髪を入れずに答えた。

 ビリーが、いたずらっ子のような顔で、ジャックを見て、そして、笑っている。

 ジャックには、何かがやわらかく捻じ曲げられ、微妙な心のエネルギーがたまってきているような、そんなふしぎな気分がある。