それから、仕事の話になった。

 シャーリーが、コーヒーを飲みながら、簡潔に、まとめ上げた。このような時のシャーリーは、さすがだ。

 今、新宗教が若者の間で流行っている。この、科学万能の、神なき世界で、むしろ、「奇跡」を期待し、信じる者が増えている。

 そのような若者たちを、「奇跡世代」(generation miracle)と呼ぶのだという。

 「奇跡世代」を、トムが訪ねて、人生の何に迷っているのか、困っているのか、どんな「奇跡」を期待しているのか、話を聞く、そんな企画を「Vain」(ベイン)で連載したい。

 そのライターは、ジャックに頼みたい。そして、フォトグラファーは、ビリーにお願いしたい。トムと、奇跡世代の若者との絡みを、素敵な構図で撮ってほしい。トムが着る服は、シャーリーで方向性の指示をして、詳細は、信頼できるスタイリストに頼む。そのような趣旨のことを、シャーリーは、早口で言った。

 「今の時代、ファッションだけでは売れないのよ。もっと、精神的な価値を強調しないと。トムは、その役割にぴったり。」

 シャーリーは、トムの顔を、瞬きもせずに見つめた。トムは、一言も口をきかない。

 「おい、ちょっと待ってくれよ。」

 ビリーが、異議を唱えた。

 「ぼくは、ニューヨーク以外には行けないよ。」

 シャーリーは、ビリーを見て、にっこり笑った。

 「だいじょうぶ。あなたが自転車で行ける範囲にも、いくらでも変人がいるわ。尽きないほどにね。」