シャーリーは、部屋に入ってくると、何も言わないままに、コーヒーサーバーを持って台所に行った。

 しばらく経って、中身を派手に捨て、水道をひねり、洗っているらしい気配がした。

 ビリーが、トムの方を見て、肩をすくめた。

 シャーリーにとっては、ビリーの悪癖など、すべてお見通し、ということらしい。一日経ったコーヒーを飲むなんて、考えられない。

 やがて、いい香りが漂ってきた。淹れたての、コーヒーの香りだ。

 ものごとは、確かに、こうでなければらならない

 「さあ、話しましょう。」

 シャーリーは、丸テーブルの上にコーヒーを4つ置き、さらにはテーブルの周りに、椅子を4つ並べて、トムを座らせた。ビリーも、しぶしぶ、参ったなあ、という表情を見せながら座った。驚いたことに、ソファから立ち上がる気配を見せていなかったトムもまた、立ち上がり、丸テーブルにやってきた。

 「これは、大きいわ!」

 シャーリーは、4人が丸テーブルに揃うと、いきなり切り出した。

 「これは、とてつもなく、大きい。わかっているでしょ、ジャック。」

 ジャックは、実際、何が「大きい」のか、わからなかったが、シャーリーに対する畏怖の念から、頷いた。

 シャーリーの姿から、後光が差している。トマス・アクィナスも、生きている時には、こんな風に、自信に満ちた感じだったのだろうかと、ジャックは思った。

 トムを見ると、なんだか物憂げな表情をしている。

 「ニューヨークで見つかった風船の少女のご両親、誰だか知っている?」

 ジャックが首を振ると、シャーリーは、ある有名な俳優夫妻の名前を言った。

 「ヒュー!」 

 ビリーが、口笛を吹いた。