そんなに広い部屋ではない、と聞いていたが、実際、ビリーのアトリエは手狭だった。

 ファイリング・キャビネットがたくさん置かれていて、その間を通り抜けて奥に向かった。

 「ああ、これね。」

 ビリーが、ジャックの視線を感じて、説明し始めた。

 「ぼくが撮って来た写真が、全部入ってるよ。キャリアの最初から、ずっとね。」

 ジャックの胸には、畏敬の念がわき上がってきた。

 「じゃあ、ジョン・レノンや、アンディー・ウォーホル、ウディ・アレンも?」

 「ああ、まあね。でも、ぼくは、そんなことよりも・・・」

 そう言いながら、ビリーは、キャビネットの一つを開けて、中を探りだした。

 「ああ、このあたりかな。」

 ビリーは、中から、大判の印画紙に焼き付けられた写真を何枚か取り出した。

 「どうだい。80年代。ニューヨークの街のあちこちに、こんな人たちがいたんだよ。」

 大きな、黄色い帽子。白と黒の、ジグザグになったドレス。犬を連れて歩いている、犬柄のワンピースの女性がいる。 

 「みんな、個性的だったな。もちろん、今もある程度はそうだがね。どうも、私には、世界が、画一的になっているような気がしてならない。」

 ビリーは印画紙をテーブルの上に置いたままで、そのまま奥に進んだ。

 ジャックが追いかけると、奥は小さな居間のようになっていた。

 ここにも、ファイリングキャビネットがあるけれども、人が何人か座れる空間は確保されている。

 壁際の緑色のソファの上に、横たわっている大柄の男が見えた。

 トムだった。