「生まれ変わりだとか聞いて、驚かないのですか?」
ジャックは、マツに聞いた。
「さあ、そういうお客さん、時々いらっしゃいますから」
「そうなの?」
「ええ、この前も、私はキリストの誕生でかけつけた東方の三博士の生まれ変わりだ、という人が来ました。」
「へえ。」
「それで、あとの二人のうち、一人は、ブリトニー・スピアーズなのだけども、もう一人がわからないので、今、探しているというのです。」
「なるほど。」
マツは、他のテーブルで呼ばれたらしく、白いふきんで急いで手を拭いて、出ていった。
後には、ジャックと、トムと、シャーリーと、そしてほんのすこしやわらかい静寂が残された。
マツと軽口を叩いているうちに、ジャックは、トムのことを真剣に考えていたことが、なんだかおかしくなってきていた。
今時、トマス・アクィナスの生まれ変わりだとか、この世が煉獄だったとか、そんな話を、まともに受け止める方がおかしい。
ジャックは、軽い気持ちで、トムにいろいろと質問がしたくなった。
「トム、君がかつてトマス・アクィナスだったとして、どうして生まれ変わってきたの?」
「悪魔の代理人のせいです。」
「悪魔の代理人?」
「ええ、それで、奇跡が足りない、と言われたものですから。」
「奇跡が?」
「そうです。聖人認定の時に、奇跡が足りないと言われたものですから。ですから、それが悔しくて。何か奇跡を起こそうと思って、私は生まれ変わってきたのです。」
シャーリーは、真ん中で、黙って聞いている。
つづく。