「そもそも、人ひとりの魂は、絶対的なものです。」

 ジェルキンス神父は、話しながら、少し憤慨しているようにも見えた。

 「この世に生まれ、その行いによって、永遠の生命を得る。人生自体が、神の審判の対象になる。人生のやり直しを意味する生まれ変わりの思想は、冒涜です。しかも、よりによって、聖トマス・アクィナスの生まれ変わりを名乗るとは。」
 

 「聖トマス・アクィナス」がどのような人か、また、「煉獄」が何を意味するのか、依然としてわからなかった。また、必ずしも、ジェルキンス神父の憤慨に共鳴しているわけではなかった。それでも、ジャックは、自分の動揺の正体が、次第にわかってきた。 

 今まで、トムは、神学上の立派な論争があって、それで破門になった、とばかり思っていたのが、単に、おかしな人なのではないか、という疑いがわき上がってきたのである。

 トム、君は、実は、狂人なのかい?
 

 ここに至って、ジャックは、無意識のうちに、トムに助け舟を求めた。不安になった自分の気持ちを、トム自身の感触が和らげてくれるだろうと思ったのである。

 「トム、生まれ変わりって、どういうことだい?」

 トムは、ジャックの顔を見て、瞬きもせずに言った。

 「いや、実際、私は、聖トマス・アクィナスの生まれ変わりなのです。あなたも、その証拠を見たでしょう。」
 

 ジャックは、衝撃とともに、トムが少し浮き上がっているように見えたことや、トムの持っていた風船に起こった異変のことを、思い出した。

 あれは、自分の幻覚だとばかり思っていたのだが。生まれ変わりの証拠だとでも言うのか。

 ジェルキンス神父は、そんなジャックの表情の微妙な変化を見逃さなかった。

 「あなたもまた、トムのたわごとを信じていらっしゃるのですか?」

 ジャックは、自分の巻き込まれつつある渦の回転があまりにも速いので、くらくらと、めまいを感じた。