天に昇って、光り輝く巨大なダイオウイカに会った、イカ揚げくん。

ああ、お母さんだ、となつかしく、暖かい気持ちがこみ上げてきたのです。

その、お母さんの、紫色に光る瞳を見ているうちに、イカ揚げくんはよくわからなくなってしまいました。

ふわふわふわ、くらくらくら。

周囲は暗闇で、どこからか、声が聞こえます。

最初ははっきりしなかったその言葉が、次第にかたちをとってきました。

「イカ揚げくん、イカ揚げくん、だいじょうぶ?」

ぱちん、と何かがはじけて、イカ揚げくんは、水色の明るい光の中にいました。

大きな瞳が二つ、イカ揚げくんを心配そうに見つめていました。

しかし、それは、ダイオウイカの目とは、違います。

「太郎くん!」

イカ揚げくんは、太郎くんの手の中にいます。

「どこにいっていたの? イカ揚げくん?」

「イーッ! ダイオウタコくんは、どこにいったの、イーッ!?」

「ダイオウタコくんって、誰?」

「じゃあ、小百合おねえさんは? イーッ!?」

「小百合さん? おねえさん? ぼくには、おねえさんはいないよ。イカ揚げくんは、夢を見たんだね。」

夢? 今までのは、すべて、夢? どれくらい長く、眠っていたのでしょう。

イカ揚げくんは、もしかしたら、太郎くんと出会って、糸につけられて空に浮かんだことも夢だったのか、と思いました。

ぼくは今でも、仲間たちと海の中を泳いでいるのかもしれない。

そう考えると、すべてがよくわからなくなってきます。

しかし、その一方で、太郎くんの温かい手と、自分の身体は、確かに、一つのオレンジ色のかたまりになっているようにも、感じられたのです。

おわり。

ここまで、イカ揚げくんのお話、全15話をお読みいただき、ありがとうございました!

イカ揚げくんは、またみなさんの元に戻ってまいります。

それまで、ごきげんよう!

(イカ揚げくんのこれまでのお話は、カテゴリー イカ揚げくん にまとめられてます。)

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