書生の植田工から送られてきた文章です。温かいお言葉、ありがとうございます。

べんまく記_4


手術をしなくてはならないということは分かりました。手術を受けるタイミングの判断として、私の症状の場合、手弁置換手術になるか弁形成手術でいけるかということがありました。弁形成手術は、自分の弁を形成して元通りにする手術で、弁置換は人工弁か生体弁に交換して弁の機能を保たせますが、人工弁も生体弁もどちらも一長一短あるそうで、弁置換ではなく弁形成で元に戻せるタイミングなら、それを逃しては勿体ないという判断でした。


手術をしないでいいならしたくないですし、今よりは良くなるのだろうということは漠然と思うのですが、具体的に実際どうなるのかその変化や状態を知らないので妄想が膨らんでしまいます。医療関係の知り合いの人に聞くと、心臓外科の手術は日進月歩で進歩していて、弁形成手術はほとんど確立した手術だから安心して大丈夫だということを言われたりもしました。


手術が無事成功して復帰したときのことを考えておかなければいけないのに、手術までにしなくてはいけない10のことみたいな弱気なことを思ったりしてします。しかしそんな万が一のことよりも、とにかく実質的にやっておかなければいけないことを考えなくてはなりません!


あらかじめ準備しておかないと一番大変なことになりそうなのは、高額医療制度適用の申請です。今回の心臓の手術は三割負担で立て替えの先払いだったとしたら、とてもじゃないですが支払うことができませんので、本当にこの医療保険のおかげで治療が受けられます、有り難さを実感します。


あと大事なのはお仕事ですが、モギ先生の連載で頂いている数少ないイラストのお仕事もご担当の編集者の方はとても温かなお言葉を掛けて下さいまして、先生は入院中に作業をしなくていいように半月以上前に原稿をお送り下さいまして、イラストも入院前に入稿させて頂きました。


術後どれくらいで絵が描けるのかもわからないなぁと思い、6月に決まっているグループ展のための絵も描いておこうとしましたがこれも何枚か手をつけながら描き上がらず、一年以上前からご依頼頂いている絵も何件かいまだに仕上げられてもいないことも心に引っ掛かります。終わらせられていないことばかりです。遺言も書いてないけど、自分のマスターピースもまだ残せたようには思えません。あぁ、これではとても万が一にも死んでなんかいられないなという気分になってきます。


あれこれ考えながらアワアワするだけでリストアップしてみたことの10分の1も取り組めず、いろいろ中途半端なまま、刻々と手術の日が近づいてきます。


ある日突然ぶっ倒れて緊急手術などという状況とは違うので、気持ちの準備の時間がありながら、何も出来ないと言うのも情けない話しです。なんでこんなことも出来ないのかと自分でも何度も思いますし、死ぬ気になればやれないことは無いだろうとは思いますが、それで死んでもいいと思ってやれないのはまさに死ぬ気でやれない弱い情けない人間だということもよく分かります。でも、自分でも情けないを通り越して、本当に頭も体も動かないのです。血液の逆流は想像以上に重く全身を鈍らせていたと思います。

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