#シラスフロントロー 

第51回 

朝比奈秋『サンショウウオの49日』

最優秀批評家賞 manab0rg、kojikoji

平均点68点(最低60点、最高80点)。

批評コンセンサス

著者は、主要な純文学新人賞をすべて受賞するなど、とても優秀な書き手である。今回もチャンネルメンバーの評価はあまりバラけなかった。本作の題材は、文学的な装置として用いるには身体性においても精神性においてもさまざまなハードルがあり、それをクリアした手腕は高く称賛された。一方で、設定に根本的な無理があり、主人公の中枢神経系の成り立ちが最後までわからなかった。解離性同一性障害と何が違うのだろうか。トランスジェンダーのようなテーマと異なり、当事者からの異議申し立てが構造的に出にくい本作のような場合でも、文学的な倫理基準は同様に求められる。芥川賞選考委員が、理系的、科学的設定にころりと騙される傾向があるのは、複雑系の科学を背景にした『三体』のようなフィクションが日本の文学の「中枢」にリテラシーとして分布していないからだろう。

 

議論の詳細(番組アーカイブ)

https://shirasu.io/t/kenmogi/c/kenmogi/p/20240727092315