白もくれんはらりと耳をうしなって 村上栄子
これも、先に紹介した村上栄子さんの句です。
「窓と窓」オンライン句会(2023/3/26)で話題になりました。
咲き切った白木蓮の花の散り落ちる瞬間を、独自の感覚でとらえらえた一句
です。これも、やはり「耳をうしなって」という鋭い身体感覚で詠んだ暗喩が、
花を失っていく「白もくれん」の無残なさまを、まるで救っていくかのような
表現になっています。
その大きな花弁が開ききり、いまにも落ちそうになっている木蓮の花には、
どこか滅びに向かう貴婦人のような、ある種のけだるさを漂わせた美しさがあ
ります。しかし、いったん地上に落ちてしまえば、それは無残で醜悪なものに
なり果ててしまうのです。
花が落ちてしまった後の萼を凝視していると、真っ白な花弁の面影が浮かび
あがってきます。やがて、それは耳をそがれた傷痕の痛々しい映像を呼び込み、
地上で無残に変色していく花びらの上にしたたるまっ赤な血を想像させます。
血に染まる花びらは、新たに妖しい光を纏い始めるようです。
そんな妄想をしてしまう、私にはちょっと怖い一句です。