監督 クロエ・ジャオ

ファーン: フランシス・マクドーマンド

デイブ: デヴィッド・ストラザーン

リンダ: リンダ・メイ

スワンキー: シャーリーン・スワンキー

ボブ: ボブ・ウェルズ

ピーター: ピーター・スピアーズ

2021年/アメリカ

 

映画は、現代のノマド達の実態を、ドキュメント風の作風で映し出していく。

1日1日を生きていく姿はたくましくもわびしい。

明日は何とかできる。

でも、半年後はどうなっているのかわからない。

不安を抱え、自分の身ひとつを生活の糧にする。

主演は『ファーゴ』のフランシス・マクドーマンド。

抑えた演技がリアリティを醸し出している。

 

お勧め度

★★★★★

 

 

 住み慣れた家を失った初老の女性ファーン。リーマンショックの余波を受けたのだ。愛着なる服を抱きしめる。

 

ファーン

 

 ワゴン車に乗り込み移動する。これからは車が住居となるのだ。さすらう人「ノマド」となって生きていく。

働く口を求めて国内を移動する。アマゾンの大きな倉庫で働く。

 

 

 

 そこには同じような身の上の人たちが多く働いている。安い時給で過酷な肉体労働をこなす。ピッキングをし、梱包をしているうちに1日が過ぎていく。

 

 ファーンは死んだ夫が使っていた釣り道具入れを食器入れとして使い、父が高校卒業に祝いにくれた皿を大事に持っている。

 

 ショッピングセンターで、以前の知り合いと偶然出会う。娘を連れたその女性は、再会を喜ぶ。

「困ったことがあったらうちに泊まって」と気遣う。ファーンの身の上を知っているだ。

 

 

 女性の娘はかつてのファーンの教え子だ。ファーンに習った語句を暗唱し、ファーンはそれをほめる。

「完璧よ」

「先生はホームレスになったの?」

「いいえ、ハウスレスよ。別物だわ。心配しないで」

「OK」といって少女は去っていく。

 

職場で知り合った初老の女性リンダ。自殺を考えたこともあるという。しかし飼っていた二匹の犬の眼を見たらできなかった。

「アリゾナにノマドの支援組織がある。あなたも来てみてよ」

そういってファーンを誘う。ファーンはそれを断る。

「住所だけでも聞いておいてね」リンダはファーンを気遣う。

 

リンダ

 

 アマゾンでの契約が切れて年末に仕事を失う。外は雪が積もっている。寒い。

仕事はなかなか見つからない。ガスステーションの脇に車を停める。

「おせっかいかもしれないけど、近くに教会があって宿泊施設もあるわ」

 ガスステーションの女性店長が気を使ってファーンに話しかける。

「何かあったら言ってね」そういって立ち去る。

 

 ファーンは南へと向かう。アリゾナのノマドの集落へ行ってリンダと再会する。

 

 

主催者のウェルズが演説をうっている。経済の奴隷であった我々は年老いてそのサークルからはじき出された。だから我々は助け合わなければならない。今や国の経済は崩壊しかかっている。多くの人を助けたい。

 

ファーン     リンダ

 

 キャンプには様々な過去を抱えた人たちがいる。ベトナム戦争へ行ってPTSDになったという老人。両親ががんで死んで全国を回ることにした女性。同僚の死を見つめて「時間を無駄にしてはいけない」と思った女性。

 

 ノマドの友人たちと新型RV車の展示会へ行く。高級で大きな車ばかり。

「恐竜の群れみたい」

中に入って最新の機器の利便性に声を上げて驚くファーン達。少女のようにはしゃぐ初老の女たち。

 

 ファーンは短期の仕事を見つけながら居場所を変えていく。知り合った同じ境遇の人からノマドとして生き抜いていく術を学んでいく。

 

 国立公園で働き、ファストフードの店、農場などで働く。

いろいろな出会いと別れがある。

洗濯はコインランドリー。暇なときは夜の街を歩き、ファストフードの店で一休みする。ファーンは、一人でいることが多い。誰に見せるでもない写真を撮って、散歩する。

 

姉の家を訪ねる。姉には不動産業を営む夫がいて余裕のある生活をしている。姉はファーンの生き方を肯定しつつも、姉夫婦の家で暮らすことを愛情をこめて勧める。しかし、ファーンはそれを断ってノマドの生活へと戻っていく。

 

 

 その後ファーンは旅の途中で知り合った男性の住む家に行く。

 

 

 その男性もノマドだったのだが、息子夫婦の暮らす農場へ行きそこで生活していたのだった。家族はファーンを歓迎する。男性はファーンにここで一緒に暮らしてくれないかという。息子の嫁は素朴なタイプでファーンと仲良くなって「義父はあなたのことが好きよ」という。ここで暮らせばいいのに、とその若い嫁はいっているかのようだ。しかし、ファーンはその家を出ていく。

 

 またアマゾンで働き、新年を迎え、車で移動していく。

ファーンはかつて住んでいたエンパイアへ行く。かつて暮らした家は廃屋になっている。中へ入る。台所から見たいつかの風景。遠くに山脈が見渡せる。私はここで暮らしていた。死んだ夫ボーともそのうち会える。ファーンはそう思う。そして車に乗って旅を続けていく。いつか見た夏の日を胸に描きながら。

 

 

 

広大なアメリカの中西部。貧しい土地が多いのだろうか。ノマド達はどこかで人生のレールから外れ、その日暮らしをしている。しかし「人生のレール」とは何だろうか。生きやすく死にやすい道のことだろうか。