監督 デヴィッド・リンチ

ジェフリー・ボーモント(カイル・マクラクラン)

ドロシー・ヴァレンズ(イザベラ・ロッセリーニ)

フランク・ブース(デニス・ホッパー)

サンディ・ウィリアムズ(ローラ・ダーン)

ジョン・ウィリアムズ(ジョージ・ディッカーソン)

ベン(ディーン・ストックウェル)

ウィリアムズ夫人(ホープ・ラング)

ドン ドロシーの夫

ドニー ドロシーの息子

ゴードン 黄色いブレザーの刑事

1986年/アメリカ

 

デヴィッド・リンチの作品の中では理解しやすい映画ではないかと思う。

しかし、リンチの独特な美意識が濃厚に醸し出され、

見る者を眩暈の世界へと導く。

 

青いベルベットの緞帳を映し出し映画は始まる。

豪奢だけどもどこか重たげなその青いベルベットは、

懈怠を孕んだように揺れている。重々しい音楽が重なる。

場面は一転し、郊外の落ち着いた牧歌的な住宅街ランバートが映し出される。

穏やかな雰囲気が漂う。抜けるような青い空。薔薇の花が咲いた庭。平和な生活。

 

庭に水を撒いている初老の男。突如苦しみだす。

首のあたりを押さえ倒れ込み、手には水撒きのホースを持ったまま。

 

 

 何も知らない犬が駆け寄り、ホースからほとばしり出る水を飲み、

カメラは倒れた男の耳元の草むらに入り込む。

そこでは黒虫がざわざわと蠢いる。

無邪気な犬と瀕死の男、緑の芝生の暗黒の領域でざわつく虫たち。

水を噛むようにして飲む犬は微笑ましい。

しかしその脇には死の扉をノックした男がいる。

青々とした草むらはみずみずしい。

しかし、その奥には骸を求める虫たちが潜んでいる。

 離れて見ていると一見綺麗に見える。

しかし、その深淵にあるものは…。物事には二面性がある。

いや、多面性といった方が正確かもしれない。

これから始まるであろう不穏な物語を暗示する素晴らしい幕開けだ。

 

お勧め度

★★★★★

 

 

 庭に水を撒いているときに倒れた父親を見舞うジェフリー。

 

ジェフリー

 

 父は何かいいたそうだが口をきくことができない。そんな父の様子を驚き心配そうに見つめるジェフリー。その帰り道、草叢で人の耳を見つける。一部が腐敗し虫がたかっている。ジェフリーはその耳を、近くに落ちていた紙袋に入れて警察署へ持っていき、ウィリアムズ刑事に渡す。警察はすぐに捜査に入る。耳は鋏で切り取られたようだ。

 

 

ウィリアムズ刑事

 

 その晩ジェフリーは、好奇心が疼き、刑事の家へ行く。もともと顔見知りで近所なのだ。ウィリアムズ刑事は、「事件が終わったらすべてを話すが今は何も言えない」と穏やかに話す。「事件のことはまだ人には言わないように」と柔らかく釘を刺す。温厚で落ち着いたタイプだ。

 

ウィリアムズ刑事      ジェフリー

 

 ジェフリーが家を出ると、庭先に刑事の娘のサンディがいる。サンディは高校三年生。ジェフリーの高校の後輩にあたる。

「あなたが耳を見つけたの」

「何故知っている」

 サンディは、父が書斎で話をしているところを聞いたらしい。この事件とは関係ないかもしれないが、女性歌手の名前も出た。近くの店で歌う歌手だ。アパートの7階に住んでいるという。ジェフリーは興味を持ちサンディのそのアパートへ連れて行ってもらう。古びた感じのアパートだ。

 

サンディ     ジェフリー

 

 ジェフリーは遠方の大学に行っていたのだが、父が倒れたため父の店である金物屋を手伝うことになる。従業員はジェフリーが戻ってきたことを喜んでいる。

 事件にのめり込んでいくジェフリーは、歌手の女(ドロシー)のアパートの鍵を手にいれ監視することを考える。事件解決のヒントがあるかもしれない。

 ジェフリーは害虫駆除の業者に化けて、部屋に入る。少し遅れてドロシーが「エホバの証人」の勧誘員として訪ねてくる。ドロシーの注意を引きつけている間に、鍵を盗む、という作戦だ。

 

ジェフリー       サンディ

 

 当初、ドロシーは難色を示すが、ジェフリーは説得し協力を得ることになる。

 ジェフリーがー首尾よくドロシーの部屋に入り薬剤を撒いていると、ドアをノックする音が聞こえる。てっきりサンディと思ったが、顔をのぞかせたのはでっぷりと肥った目つきのよくない黄色いブレザーを着た男だった。

 

ジェフリー    ドロシー

 

ドロシー   謎の男

 

 ジェフリーを疑わしそうに見るがドロシーが「害虫の駆除業者よ」というと立ち去っていく。その間、偶然にも鍵を見つけたジェフリーは素早くそれをポケットに入れる。

 

 ドロシーはスロー・クラブで歌っている。妖艶な表情と声、姿態。ブルーベルベット。

 

 

 ドロシーが店にいる間に、ジェフリーは盗んだ鍵でドロシーの家に忍びこむ。ジェフリーは事件の手がかりがないか部屋の中を探る。

不意に部屋のあかりが付く。ドロシーが帰ってきたのだ。ジェフリーはクローゼットに隠れて、横板の隙間からドロシーの様子をうかがう。ドロシーはフランクという男からの電話を受けて、動揺する。

 ジェフリーがクローゼットの中で物音を立てて、ドロシーに感づかれる。ドロシーはナイフを手にしてジェフリーに名前や目的を聞く。

 

ジェフリー      ドロシー

 

「ここで何を見たの!」

「帰ってきて、電話をして、(ドロシーが)服を脱いで…」

 ドロシーはジェフリーに服を脱ぐように命じる。服を脱いだジェフリーにドロシーは肉欲を感じたのか、慰撫されたかったのか、恐怖をまぎらわせたかったのか、体を求めていく。すると突然にドアをノックする音。ジェフリーはドロシーに命じられて再びクローゼットへ隠れる。

 

 部屋に入ってきたのはフランク。革のジャンパーを着て、ギラギラとした目つきをしている。気が短く高圧的。

 

フランク

 

 フランクに命じられるまま、ドロシーは椅子に座り股をひらいていく。バーボンの入ったグラスを片手に凝視するフランク。そして、吸引マスクを取り出し、何やらガスを吸い込む。

 

フランク

 

 表情が険しくなり、ドロシーの股間に顔を寄せて

「マミー、マミー!」と叫びだす。ドロシーがフランクを見ると

「俺の顔を見るな!」とドロシーの頬を打つ。

「ファックがしてえ。やってやるとも!」

 

 

フランクはドロシーを暴力的に犯し、満足し、

「生きていろよ、ゴッホのためにな」といって部屋を出ていく。

一部始終を見ていたジェフリーは、衝撃を受けるが、クローゼットから出て、床に横たわるドロシーをベッドへ連れていき横たわらせる。

「ドン、私を抱いて」

ドロシーはジェフリーのことを「ドン」と呼び、ジェフリーは成り行きに任せてドロシーを抱くのだった。

 その後、ドンはドロシーの夫ということをジェフリーは写真を見て知る。

 

ドロシー

 

翌日の夜、ジェフリーはサンディと会う。

「この世は不思議な所だ」

 ドロシーの夫ドンと息子ドニーは監禁されている。犯人はフランクという男だ。目的はドロシーに性行為を強要するためだ。フランクはドンの耳を切り落とした。恐ろしい男だ。

 

ジェフリー

 

 ジェフリーはサンディに説明する。

サンディは父に話をしてというが、ジェフリーは「それはできない」という。自分のやったことは違法だし、証拠もないし、サンディに迷惑がかかるからだ。

すると、サンディは「この世は悲惨ね」といって、唐突に夢の話をしだす。そしてコマドリについて語り、暗闇の世界に数千羽のコマドリがやってきて世界に光をもたらす、コマドリの愛の力が世界を変える、と夢見る少女のように目を潤ませるのだった。

 翌日の晩、ジェフリーはドロシーの部屋を訪ねる。ドロシーはジェフリーのことが好きだといい、ジェフリーもそれに応える。部屋の隅の小豆色の分厚いカーテンが不穏に揺れる。

 

ジェフリー      ドロシー

 

 別日、夜、ジェフリーはドロシーのステージを見ている。ドロシーは儚げで妖艶にブルーベルベットを歌う。ジェフリーが客席を見渡すと、ドロシーの歌を聞きながら涙ぐむフランクを発見する。手には小さなブルーベルベットの布切れもち、それを指先で慈しむように撫でている。

 

フランク

 

 ある夜、スロー・クラブの前で車に乗りフランクとその仲間を待ち伏せしたジェフリーは、あとをつけてフランクの住むアパートの場所を突き止める。

 

 高校の前。サンディにはマイクとういうボーイフレンドがいるのだが、サンディを迎えにきたジェフリーを見てサンディがジェフリーと付き合っていると思い込む。ジェフリーを目の敵にしだす。

 

ジェフリーはフランクのアパートを監視する。その顛末をサンディに話す。サンディは不安そうな顔つきでジェフリーの話を聞く。

 ① 黄色のブレザーを着た男がフランクと接触する。

 ② 黄色のブレザーの男は鰐革の鞄を持った男と接触し、麻薬の場人が殺された現場を離れた場所から見つめていた。

  「大量の麻薬を警察は見つけるだろう」と二人は話をしていた。

 

 ジェフリーは隠された不穏な世界を見てしまったのだ。それが故、ますます深みにはまっていこうとする。サンディはジェフリーのかたくなさに不安を覚える。

「謎が多い。そして君も謎が多い。君のことが好きだよ、とても」

といって、ジェフリーはサンディにキスをする。サンディはジェフリーを不安と恍惚の表情で受け入れる。

 

ジェフリーはサンディに「君のことが好きだよ」といいながら、ドロシーのアパートをまた訪ねていく。二人は見つめ合い、抱擁し、キスをかわし。ドロシーはジェフリーを寝室に誘い、愛し合う。

「私を打って!」

ドロシーはジェフリーに要求し、ジェフリーはそれに応える。倒錯に満ちた、甘い禁断の夢のようなひと時にジェフリーは身を任せる。

 

 その後、ドロシーの部屋を出るときにフランクの一行と出くわし、ドロシーともども無理やりドライブに連れ出される。最初に行ったのはベンの店だ。ベンはおかまでフランクたちは「俺たちのおかま」と呼んでいる。

 

フランク    ドロシー    ジェフリー

 

ベン

 

 ベンの店でフランクは横暴に振る舞い、ジェフリーを怯えさせる。フランクはジェフリーの顔を殴り、そのあとにベンは腹を殴る。それを取り巻きたちはニヤつきながら見ている。完全に怖気づくジェフリー。

「眠りの精はお菓子のピエロ」とフランクはベンに呟く。歌のリクエストをしたのだ。ベンは面妖な雰囲気で歌を歌い始める。

 

ベン

 

フランク     ベン

 

 ポップで明るい歌だ。楽しい歌の流れる中で、ジェフリーは凍り付き、一緒に連れてこられたドロシーは不安気な表情を浮かべる。

ベンは口パクで歌っている。その歌をフランクは一緒に口ずさみ目を潤ませる。しかし突然険しい表情を浮かべて音楽をとめる。目に狂気が宿っている。そしてジェフリー、ドロシーを連れ出してドライブに出かける。

 

 車中でドロシーに嫌がらせをするフランクにジェフリーは思わず「やめろ!」と叫び、顔を殴ってしまう。怒ったフランクは、車を停めさせて、取り巻きにジェフリーを外に連れ出させる。取り巻きたちはフランクのいいなりだ。

 フランクは口紅を塗ってジェフリーに何度もキスをする。怒りと狂気に満ちた目付きで「女に手を出すな。ラブレターが届くぞ。それは弾丸のことだ」といってジェフリーを脅す。ジェフリーは恐怖で涙目になっている。「俺の筋肉を触れ!」そういってフランクは何度もジェフリーを殴りつける。

(続く)

 

 

 

 

 

 

ブルーベルベット