監督 ジャン・ベッケル

ランティエ少佐(フランソワ・クリュゼ)

ジャック・モルラック(ニコラ・リュボデシル)

ヴァランティーヌ・デュプラ(ソフィー・ベルベーク)

2018年製作/83分/G/フランス・ベルギー合作

 

お勧め度

★★★☆☆

 

 

1919年、第一次大戦が終わり、パリ講和条約が結ばれた年。

フランスの地方の静かな街。陽が照って乾燥した空気が漂う。

収容所の外では黒い大型犬が吠えている。収容所から太った男が出てきて犬に石を投げつける。

「うるさい! 黙れ!」

 

収容所の肥った男

 

 犬は昼も夜も鳴き続けている。収容所に届け物をしに来た女性は、犬を抱き慰める。犬は収容されている軍人のジャック・モルラックの飼い犬だ。

 

 

 モルラックを担当するランティエ少佐がやってくる。犬を気にする。

 

ランティエ少佐

 

軍判事の少佐はモルラックの収容されている部屋に行く。モルラックは無視して寝っ転がったままだ。それでも少佐は話をしだす。

「レジオンドヌール勲章をもらっている。なかなかもらえない賞だ」そういってモルラックをほめる。しかし、モルラックは反応しない。背を向けて寝たままだ。

「なのになぜあんなことをした? 酒を飲み酔っていたのか? 戦争の記憶をなくすためによくあることだ。謝罪と反省の弁を述べるならば放免しよう」

 

ランティエ少佐

 

モルラック

 

 するとモルラックは身を起こし少佐の顔を見つめる。

「素面だった。謝罪などしない」

 外では犬が鳴いている。

 

 

「あの犬はいつから飼っている?」

「最初からだ」

「最初とは?」

「出征するときからだ」

  少佐が煙草に火をつける。モルラックは「一本くれ」という。少佐は煙草を渡す。 

 モルラックは戦争を回想する。そして、怒りだす。

「人を殺すことを強要した国家には謝罪はしない!」

 モルラックは徴兵され従軍していたのだ。

 

 

少佐は聞き取りを中断し、収容所を出て犬のもとへ行く。

「鳴いたら喉が渇くだろ?」

 そういって水を汲み飲ませてやる。

 

 

 その後、少佐はホテルの食堂で代訴士のエクセルの話を聞く。

モルラックは革命記念日に犬を連れ乗り込みひと騒動起こした。小学校を出た後、父親の農場で働いていた。もともとは農民なのだ。戦争前は平凡な青年だった。恋人もいる。彼女は3歳の子がいるヴァランティーヌ。

 

 翌日、聞き取りを再開する。少佐はモルラックに煙草を持ってくる。少佐の質問に答えながらモルラックは再び戦争を回想する。

 簡単な訓練ののち前線に送りだされる。砲弾が飛び交う中、相手の兵隊と銃剣を突き合わせた肉弾戦を繰り広げる。そこには犬もいる。モルラックの犬は相手の兵士にとびかかり噛みつき勇敢に戦う。

 

 その後、モルラックは東洋部隊に入り徴用された貨物船に乗る。犬も乗船している。着いた先は人種のるつぼだ。ヨーロッパはおろかベトナム人までいる。言葉は通じず混乱するばかり。

少佐は決して高圧的になることなくモルラックに質問をし、静かに聞いていく。

混乱の中、上官は矛盾した命令を飛ばすばかり。そして行先もわからずに行軍しだす。途中、傷ついた友軍とすれ違う。皆、疲弊し傷ついている。互いに無言ですれ違う。 モルラックは思う。傷兵たちの行きつく先は屠殺場だ。彼らは無用の廃物として処分されるのだ。

 

 翌朝、少佐はヴァランティーヌに会いに行く。ホテルの女将の死んだ亭主の自転車に乗って、遠路を自転車をこぐ。

ヴァランティーヌは少佐が来ることを予感していて、家に招き入れる。ヴァランティーヌは少佐の質問に答えてモルラックとの出会いを話す。

 

 ほし草を買いにモルラックの農場へ行ったのがきっかけだった。馬車いっぱいのほし草をヴァランティーヌは注文し、翌日もモルラックは馬車に乗り届けに行く。

 

モルラック

 

ヴァランティーヌ

 

 ヴァランティーヌは庭先の畑を耕していた。そして一人で暮らしていた。否、庭先には黒い犬がいる。 

 モルラックはヴァランティーヌと一緒に暮らすことにする。ある日、市場にチーズを売りにいたヴァランティーヌは戦争が始まることを知る。招集令が出される。ヴァランティーヌはモルラックが招集されることを心配する。「心配するな」というモルラックだったが、召集されることになる。

 モルラックが家を出ていくとき、淋しそうに見送るヴァランティーヌ。迎えの馬車に乗り去っていくモルラックのあとを黒い犬が付いていく。

 

 

 ヴァランティーヌの母と兄弟は病気で死に、父は別の理由で死んだ、ということを少佐は知る。

 さらに、三歳の子供はモルラックとの子であることがわかる。

「モルラックは知っているのか?」

「手紙を書いたわ」

「届いていない可能性がある」

 

 少佐は、地元の軍曹ギャバールと話をする機会を得る。

 

ギャバール

 

 ヴァンティーヌの父はユダヤ系のドイツ人で、過激な平和主義者で、捕らえられて刑務所で死んだ、という話を聞く。

少佐はギャバールに頼みごとをする。

「モルラックがなぜヴァランティーヌを避けるのか調べてくれ」

 ギャバールはヴァランティーヌを訪ねてモルラックのことを聞く。しかし、ヴァランティーヌは何も言わない。あきらめてギャバールは帰っていく。黙々と枯草を家畜に与えるヴァランティーヌの表情は硬い。

 

 少佐は犬に気を遣う。そしていう、

「モルラックに謝罪するようにいってくれ」

 少佐はモルラックを釈放したいと考えているのだ。

 

 あるとき犬の姿が見えなくなる。少佐は収容所の番をしている肥った男に犬はどうしたのか聞く。近くの老婆が連れて行ったという。少佐はその家を訪ねる。犬がぐったりと横たわっている。老婆は犬の世話しながら話をする。

 

老婆

 

 腐った軍人ども、若者をたくさん殺した。私の息子も三人の孫も殺した。少佐は黙って話を聞く。

「ところであんた誰?」老婆は聞く。

「犬とその飼い主の友人です」そう答えて家を後にする。

 

ランティエ少佐

 

「1917年に何があった?」少佐はモルラックに聞く。モルラックは床に図を書きながら説明する。

「隣にはロシア軍がいた。そこには雌犬がいて、俺の犬が行き来していた。あるとき犬についてロシア兵達のところへ行った」

 フランス語のできるロシア兵がいうにはロシア国内で反乱が起きている。農民や労働者が中心となって社会を変えようとしている。戦争の犠牲が大きすぎる、という話をしだす。そこに一人の兵士が飛び込んできて何やら大声で皆に何かを伝える。確認すると、「皇帝が退位した。革命だ!」ロシア兵たちは酒杯の酒を飲み始める。

 そこまで話をするとモルラックは中庭に出たいといいだす。

 

モルアック

 

「息がつまりそうだ」

 少佐は規則を破り、モルラックを中庭へ連れ出す。モルラックは右足を引きずっている。

 

モルアック     ランティエ少佐

 

 ロシアに革命が起きた影響で、ブルガリア兵たちと和解する話が持ち上がる。塹壕から出て、両軍が向き合って握手をする。そしてそうして戦争を終わらせる、そういう計画だった。 ある朝、ブルガリア軍がインターナショナルをうたいながら塹壕がら出てくる。それを受けてフランス軍も塹壕から出る。しかし、犬がブルガリア人にとびかかる。ブルガリア軍は本性を露わにしてフランス軍に発砲し、戦いが始まる。その戦いで敵兵を九人倒し爆弾で負傷したモルラックは叙勲されることになる。犬は知っていたのだ。敵は正面からくることを。

 

 

モレアック

 

 復員後モルラックは隠れて家に帰り、息子の様子を見ていたことがわかる。そのことをヴァランティーヌは知らない。

 

 子供が生まれる前、妊娠中に一度モルラックは休暇で家に帰る。すると中から男が出てくるのを目撃する。そのあと家からヴァランティーヌが出てくるが、モルラックは駆け寄るヴァランティーヌを振り払って立ちさった。

 この話をギャバールにしたのはルイという男だ。仕事につかずぶらぶらし、ヴァランティーヌのことを頻繁に観察している。少し知恵の遅れた感じの男だ。

 

 少佐はヴァランティーヌから話を聞く。

「妊娠して身体が辛くなってきて、脱走兵をかくまっていた代父に連絡し一人の脱走兵をかくまうことにした。山羊の餌やりや畑の仕事をしてもらうために」

 その男が家から出てくるところをたまたまモルラックは見てしまい、誤解したことを少佐は理解した。裏切られたと考えているモルラックはヴァランティーヌが面会に行っても拒否してきた。

 

ヴァランティーヌ

 

 逮捕された理由は革命記念日にいきなり舞台に立って、犬の首に勲章を下げたのだ。国を侮辱したかどで彼は逮捕されたのだった。

 

モルアック

 

 審問の最終日、少佐はいう。

「ヴァランティーヌに会って話をするんだ。犬に勲章を与えたのは、ヴァランティーヌに対する当てつけだろう。君は誤解している。何枚かの書類にサインをすれば自由の身だ」

 

 その日の夕暮れ、モルラックは犬と一緒に家に行く。家の中を覗き、ヴァランティーヌを認めるがノックする勇気がない。犬が鳴く。ヴァランティーヌは家から飛び出し、モルラックに抱き着く。

 石造りの小さな家。夫婦は再会することができた。穏やかで幸福な生活を取り戻していくだろう。

 

 

 

少佐は、立ち去るときに犬に「元気になったのか? 連れて帰りたいよ」といって頭をなでる。