監督 アキ・カウリスマキ

タチアナ(カティ・オウティネン)

エレイノ(マッティ・ペロンパー)

ヴァルト(マト・ヴァルトネン)

クラウディア(キルシ・テュッキュライネン)

ホテルの受付(エリナ・サロ)

ヴァルトの母(イルマ・ジュニライネン)

1994年/フィンランド

 

1960年代のフィンランドが舞台。

さえない中年男二人が旅の途上で二人の女に出会い、

行程を共にする。

 

お勧め度

★★★★☆

 

この映画を見て気が付いたのだが、フィンランドの氏名は、

正式にはヨーロッパ風で名前・苗字の順なのだが、

日常的には日本と同じように苗字の後に名前を付けるようだ。

 

 

 中年の独身男のヴァルトは、母親と二人で暮らしている。母親と仕立ての仕事をして生活している。母の吸っていた葉巻の盗み吸いをして、頭を叩かれたりしている。

 

ヴァルト

 

母親

 

 一息つこうとしたとき、コーヒーが切れていることにヴァルトは腹を立てる。ちょっと普通ではないくらい怒っている。母親に「コーヒーがない!」というが、つれない返事にさらに拳を握りしめ立腹する。

 

ヴァルト 「コーヒーがない!」

 

 ヴァルトは、母親を納戸に閉じ込めて母親のハンドバッグから金を盗んで家を出る。そしてコーヒショップへ行って、「コーヒーの大を二つ」と注文する。

 

 その後、ヴァルトは車を修理に出していた工場へ赴く。彼のクルマを預かっていた、自動車修理工レイノはいい年をして不良ロッカー気取りで、少し痛い感じだ。

 

工レイノ

 

「車は直ったか」と不愛想な感じでヴァルトはいう。

「ああ」と返すエレイノも不愛想だ。

「乗れよ。試運転だ」

「その前に、金を払え」

 金を払ったヴァルトは意気消沈している。

 

ヴァルト    エレイノ

 

作業服から革ジャンに身と包んだエレイノを乗せてヴァルトは試運転の旅に出る。

 

エレイノ    ヴァルト

 

 道中,昔の武勇伝を聞かせるエレイノ。ヴァルトは適当な相槌を打っている。

「ラップランドは最悪だ。トナカイしかいない。あそこには行くな」

「行くのなら南だ。南にはいい女が多いからな」

 酒を飲みながら饒舌なエレイノなのだった。ふたりを乗せた車は南に向かっている。

(どこまで試運転をするつもりなのか?)

 

 日も暮れて、雨も降ってきて

「疲れた」とヴァルとはいう。

「コーヒーが飲みたい」

 

エレイノ       ヴァルト

 

 車を止めレストランに立ち寄ると、二人の女が並んで座っている。ロシア人クラウディアとエストニア人タチアナだ。

「あの間抜け顔の二人に港まで送らせましょうよ」クラウディアはいう。

 なんとなく頷くタチアナ。二人の女は乗ってきたバスがパンクし、修理のあいだレストランで時間をつぶしていたのだ。

 

クラウディア    タチアナ

 

 ヴァルトとエレイノが店を出て車に向かうと、クラウディアとタチアナは後をつけてくる。

 助手席に乗り込んだエレイノにクラウディアはいう。

「港まで送ってほしいの。船に遅れそうなの」クラウディアはロシア語だ。

 エレイノはいう。

「フィンランド語を話せよ」

 小馬鹿にしたように二人の男がクスクス笑う。

 

クラウディア  エレイノ   ヴァルト   タチアナ

 

 タチアナは少々フィン語ができる。二人の男に「帰国の途上バスが立ち往生した。港まで送ってほしい」という。気のいい二人の男は女の頼みを聞いて港へ送り届けることにする。

 

タチアナ       クライディア

 

 途中、打ち捨てられた納屋で、女二人はジャガイモの煮炊きをする。昨晩ここに泊ったのだろう。

「わたしがいた集団農場ではジャガイモの収穫で一位になった」クラウディアがいう。

「エストニアもジャガイモの産地よ」タチアナは返す。その後、二人は黙々とジャガイモの皮をむく。

 車のレコードプレイヤーで音楽を掛けると、女二人は踊り、男二人はその脇に腰かけて黙っている。男たちと女たちは全然口をきかない。

 

 

 車に乗りクラウディアがタチアナにいう。

「私たちを紹介してよ」

「こちらはロシア出身のクラウディア。私はタチアナ。エストニアのタリンに帰る途中なの」

 タチアナは前部のシートに座る二人にいうが男たちは沈黙したままだ。

 

 その夜、古臭いホテルに投宿する。

 

エレイノ  ヴァルト         宿の女主人

 

 ヴァルトとクラウディアがツインの同室に入り、別の部屋にエレイノとタチアナが入る。

ヴァルトは無言で寝る準備をしている。クラウディアは、少々あきれ気味に鏡に向かって化粧を直しながら、

「ロシアの男は話し好きよ。そして妻や恋人を洒落たレストランに連れて行ったりするの」

 

ヴァルト    クライディア

 

 ヴァルトは身なりを整え、エレイノとタチアナの部屋へ行く。エレイノは椅子に座り居眠りをしている。タチアナは離れた椅子に座って少し緊張している。ヴァルトは寝ているエレイノの肩をつついて起こしていう。

「レストランへ行こう」

 

ヴァルト     タチアナ

 

四人でテーブルにつくが、女性慣れしていない二人は、洒落た台詞を言うこともできず沈黙が流れる。突然、エレイノが話をしだす。

「チェコへ行ったとき、バスが止まって、皆、遺跡を見にいった。バスの中にはウォッカがあるというのに。故郷にも遺跡はある。見る必要があるか? ウォッカがあるのに」

 ヴァルトとクラウディアは無反応だが、タチアナだけクスリと笑う。

 

 

 ステージで演奏が始まる。他のテーブルの男女は、フロアに出て踊りだす。クラウディアとタチアナは、頷いて席を立ち二人で踊りだす。ヴァルトとエレイノはうつむいたまま座っている。

 

ステージの演奏家

 

歌手

 

クラウディア   タチアナ

 

ヴァルト            エレイノ

 

 踊り終わって二人の女がテーブルに戻ってくる。男たちは何の反応もしない。

「あなたたちって、本当に話好きね」

 クライディアは呆れていう。少しの間を置いて、エレイノは立ち上がり「俺はもう寝る。お休み」といって立ち去る。タチアナがそのあとを追う。

 

 部屋に戻ったエレイノは立ったままタバコを吸っている。その横の壁にタチアナがたっている。唐突にエレイノはベッドに横になり、寝てしまう。手に持ったタバコは火が付いたまま。タチアナはそれをそっととって自分で吸う。そして、エレイノ隣に静かに横たわる。

 

 

タチアナ

 

 翌朝、四人はまた車で移動する。車の中は沈黙が漂う。途中、工具店の前で二人の男はショーウィンドウを見やり議論する。その姿を見てクライディアは「フィンランドの男ってバカみたい」とつぶやく。

 道中、ぎこちないながらもタチアナとエレイノは心を通わせ合っていく。まるで高校生の初恋のように初々しい。

 車の旅も最後の夜を迎える。タチアナとクラウディアは二人の男に感謝の意を込めて紅茶とスナックをおごる。二人の男は無言で食べ飲む。

 

 

 船が出る朝、車は港についている。車中で四人は寝ている。時間が来て、タチアナとクラウディアはヴァルトとエレイノにお礼を言って別れを告げる。

 

タチアナ  エレイノ  ヴァルト  クラウディア

 

 船に乗ったタチアナとクライディアがラウンジで休んでいると、ヴァルトとエレイノがやってきて隣に座る。女たちは何も言わない。男たちも無言だ。エレイノがタチアナに煙草を勧める。タチアナは一本抜きとって、エレイノがマッチを擦って火をつける。

 

ヴァルト  エレイノ  タチアナ  クラウディア

 

 タリン駅について、クラウディアと別れを告げる。クライディアは二人の男をやさしい目で見つめ、微かにほほ笑んでいる。二人の男の朴訥な性格に可笑しさと親しみを感じているようだ。

 

クラウディア

 

 その後、ヴァルトの車でタチアナの家まで送る。

「さあ、もう家に帰ろう」とヴァルトはエレイノにいう。

「俺は彼女とここに残る。作家になる」とエレイノはいう。そして、別れを告げてタチアナの家に一緒に入っていく。

 

タチアナ  ヴァルト  エレイノ

 

ひとりフィンランドに戻ったヴァルトは思うのだった。

「もっとワイルドに振る舞っていたら、違う結果になっていたのではないだろうか」

 妄想しながら、家に戻りミシンに向かうのだった。

 

ヴァルト

 

 

 懐かしいロックンロール。アナログな家電、それに昔風の車。喫茶店の中も、殺風景で白々しい空気が漂っている。店員も不愛想だ。しかしその中から、じわじわと人の匂いがしみだしてくる。不器用な生き方しかできない人たち。諦念と納得、そんな中で生きていくうちにほんのりと感じられるかすかな希望のようなもの。

 

 こんな雰囲気の映画を見ていると、今はやりのCGを駆使した派手なアクション映画を見るのが空しくなってくる。

それにしてもバックに流れる音楽は、物語の状況をうまく伝えている。絶妙のセンスを感じる。