監督 ピエル・パオロ・パゾリーニ
音楽 エンリオ・モリコーネ
男の訪問者(テレンス・スタンプ)
パオロ(マッシモ・ジロッティ)主人
ルチア(シルヴァーナ・マンガーノ)妻
オデッタ(アンヌ・ヴィアゼムスキー)娘
ピエトロ(アレドレ・ホセ・クルス)息子
配達人(ニネット・ダヴォリ)
1968年/イタリア
伝説的なイタリアの映画監督パゾリーニ。独特で過激な作風の中に、
現代社会を風刺し強烈な鉄槌を食らわす。
その主張はしばしば政治的な解釈がなされ、
それがもとで1975年ローマ近郊のオスティア海岸で暴行を受け死亡している。
53歳であった。
題名のテオレマ【Teorema】とは「定理・定式」を意味する。
家政婦役のラウラ・ベッティはベネチア映画祭で最優秀女優賞をもらっている。
お勧め度
★★★★☆
ミラノで会社を経営しているパオロは、美しい妻と二人の子供たちとで、大きな屋敷に住み、豊かな生活を送っていた。家には家政婦がいて、こまごまとした事柄に気を使い、パオロ一家の生活の面倒を見ている。
パオロ
ルチア
オデッタ
ピエトロ
エミリア
パオロと妻のルチア、娘のオデッタ、息子のピエトロがそろって食事をしているとところに家政婦のエミリアが電報を持ってくる。そこには「明日、到着する」と書かれている。
その訪問者の男は、誰なのか、誰も知らない。しかし家族の一員として屋敷に入り込み暮らし始める。ごく自然に、はじめからいたかのように振る舞う。
庭に椅子を出して読書をする男。
男
男
その少し離れてところで家政婦のエミリアは枯葉を集めながら男を気にしている。男は煙草を吸っている。灰が煙草の先からズボンに落ちる。男は気が付かない。エミリアは男のそばへ駆け寄り、ズボンに付いた灰を払ってやる。男は特にエミリアのことを気にかけていないようだ。エミリは屋敷に走るように入って行き、鏡に自分の顔を映す。真剣な目付き。そしてまた庭へ戻り芝刈り機を押し出す。そして男に目をやる。男は相変わらずに本に目を落としている。男を見つめるエミリアの目から涙が滴る。エミリアはまた屋敷に駆け戻り、台所へ行ってガス管をくわえて自殺しようとする。そこに男が現れてエミリアを救い出す。
男 エミリア
ベッドに寝かされたエミリアは男を誘惑する。男は、優しくエミリアを抱きしめる。
家族たちの安定感が失われていく。次におかしくなったのはピエトロだった。そしてルチア、オデッタと訪問者の男の不思議な魅力に取りつかれ、落ち着きを失い、身体を男に預けるのだった。
ルチア
オデッタ
それは屋敷の主人のパオロも同様だった。内面を覗き込むような男の視線。パオロは男に「愛」を感じ始める。
ある日、電報が届く。それを読んだ男は、「明日ここを立つ」と家族に告げる。男が出ていき、屋敷の家族は皆、動揺し、おかしな行動を取るようになる。
エミリアは屋敷を出て、どこかの農家の敷地に入り込み建物の軒下に座り続ける。
エミリア
エミリア
そして、皮膚病にかかっていた少年の病を治すという奇跡を起こす。さらには空に浮き、次なる奇跡を見せつける。最後には、老婆を伴って工事現場へと歩を進め、自らを埋めさせる。
エミリア
オデッタは体が硬直しベッドの上で動かなくなる。そして担架に乗せられて病院へと運ばれる。
オデッタ
ピエトロは、狂ったように絵を描きだす。独自の技法を見入いだそうとする。キャンバスに小便をかけたりもする。
ピエトロ
ルチアは身支度を整え車に乗って屋敷を出ていく。どこへ向かうのか。道端で若い男を拾い車に乗せる。男の部屋へ行き同衾して男を貪る。
ルチア
教会の鐘の音が空しく響く。寝ている男を後にして、ルチアは部屋を出る。街の風景が、異国のような現実ではないかのように見える。車を運転し、また若い男を拾い、身を任せる。
工場を労働者に売り払ったパオロは、若い男を求めて駅で彷徨う。そして、服を脱ぎ棄て全裸となり、歩き出す。そして絶望的な叫びを上げながら、荒涼としたと大地を歩んでいくのだった。
パオロ
ときおり挿み込まれる寂寞とした不毛の大地の映像は、世をさまよう現代人の寄る辺のない精神の心象風景である。豊かでも、皆、孤独で、しかしそれを認めたくないので、浮ついた享楽にいっとき身を任せる。しかし、祭りの後には虚しさが訪れる。その虚無の心情が、現代人の心の底に流れている通低音なのだ。人は人生を生きて、果たして何を得るのだろうか。