監督 市川崑

奥村千春(北原三枝)

奥村鉄也(山村聡)千春の父

宇都宮慎一(三橋達也)

宇都宮蝶子(轟夕起子)慎一の母

船越トミ(山根寿子)

筆駒(瑳峨三智子)芸者

藤谷新子:シンデ(芦川いづみ)千春の妹分

奥村敬也(千田是也)鉄也の兄

小鎌田(宇野重吉)病院の経営者

奥村家の婆や(北林谷栄)

1955年/日活

 

原作は獅子文六『青春怪談(1954年)』

市川崑監督。

当時の売れっ子の二人。

主要な役者も生き生きとして

人生の春を生きている。

 

 

宇都宮慎一と奥村千春は幼馴染の関係だ。

互いに異性を意識することなく、

さばさばとした付き合い方をしている。

 

 

慎一          千春

 

慎一はかなりのイケメンで周囲の女子がほの字になっている。

本人はそんなことには気が付かない鈍感なところがある。

千春は男勝りの切符のよさのあるさっぱりとした性格だ。

 

慎一には独り者の母親がいて、

お嬢さんのようなのんびりとした性格で

千春には、頑固者の父親がいる。

妻には先立たれている。

 

あるとき慎一の母親蝶子が千春の父親奥村を訪ねる。

息子の慎一がお世話になっていることのお礼をいいに来たのだ。

 

蝶子

 

奥村

 

奥村は慎一のことをしっかりとした青年と褒め、

娘の千春はバレエに夢中で、世界に進出したいという

野心を持っていて、少し戒めると

キバをむいて歯向かってきて手に負えない、

などといいう。

蝶子はおっとりと、

千春のことをほめる。

 

蝶子             奥村

 

そして蝶子は、千春さんは結婚を考えているのか、

と聞くと奥村は、それはもう結婚してくれればありがたい、

などと答え、

例えば慎一みたいな相手でもよいのか、

と蝶子が聞けば

慎一君のような相手なら、

文句のつけようがない、と返す。

蝶子はそれを聞いて満面の笑みを漏らすのだった。

 

ちょうど昼頃となり、奥村の家のお手伝いのばあやが

昼ご飯を用意する。

奥村と蝶子は

一緒にご飯を食べているからなのか、

ざっくばらんとなってきて、

娘には真一君との結婚をそれとなく言っておきます、

などといいながらも、

ひとつ気に食わない点がある、といいだす。

蝶子が、それは何かときくと、

慎一君はいい男過ぎる、俳優でもなければあのような

美貌は必要ないのではないか、

何事もほどほどというものがあります

などと、いってもしょうがないことを

いいだすのだった。

 

慎一はパチンコ屋の経営をしているが、

外科病院へ建物を貸してもいる。

父親が医者だったのだ。

そこを貸している。

家賃の交渉で、いったん値引きするも

理事長に、早く元の家賃を払えるように

経営してください。

経営には無駄と人情は禁物ですよ

などとコンサルのようなことをいう。

 

千春は自分の父親の奥村と慎一の母親の蝶子を

茶飲み友達にして、

あわよくばくっつけてしまおうと企んでいる。

そうすれば、自分は父から解放されて

自由にバレエに打ち込める。

 

その話を慎一に持ち掛ける。

君の合理性を買うよ、といって慎一は賛成する。

しかし慎一は自分の母親に白羽の矢を立てるのは

感心しないという。

母親はあれでも楽しく朗らかに暮らしている。

今更結婚なんて、という思いなのだ。

 

慎一には銀座で働く

ホステスの船越トミという知り合いがいる。

 

トミ

 

トミは銀座で店を開こうとしており、

慎一は共同出資をするつもりでいる。

実はトミは慎一にほの字なのだ。

そこでそれとなく誘うのだが

慎一は全く気が付かず

経営の話ばかりしている。

 

慎一の家。

慎一が白いエプロンを着て洋風の食事を作っている。

母親の蝶子は、鏡台に向かって化粧をしている。

食事が出来上がり一緒に食べる。

蝶子は奥村家に行った話をする。

慎一には初耳である。

 

畳の部屋から海が見えてとてもいいお屋敷だった、

奥村さんはおいくつかしら、などと慎一に訊く。

51くらい、と答えると、

そんなにお若いの? と蝶子は娘のようにはしゃぐ。

そして奥村のことをほめちぎる。

慎一は意外そうな顔をしながらも

母親の話に付きあっている。

 

すると昨夜会った船越トミが訪ねてくる。

昨日のお礼という口実だ。

そしてたいそうな水菓子のセットを置いていく。

 

その水菓子をもって蝶子は奥村の家を訪ねる。

昨日借りた傘を返しに来たという口実だ。

奥村の家に行くとあいにく留守で、

娘の千春がいる。

蝶子は奥村が留守で気落ちするが、

千春は話たいことがあるといって海岸へ二人で

出かけていく。

そして、蝶子に奥村と結婚してくれないか、

そうすればおばさまが私の母親になるので

とてもうれしい、などという。

 

蝶子は娘のように照れて恥ずかしがるが、

おおらかな顔にはうれしさがあふれている。

 

慎一は、経営するパチンコ屋を

知り合いの芸者の筆駒に買ってくれないかと話をする。

トミ子店の共同出資の金にするつもりだ。

筆駒は話に乗るそぶりを見せるが、

本音は慎一に気があるので

買うのはいいが、経営の援助をしてもらいたい、

などといいだす。

 

筆駒

 

トミも筆駒も商売にかこつけながら、慎一に接近して

ものにしたいと考えているのだった。

ところが、慎一は、秋波に鈍く女心がわからない。

 

千春は父親の奥村に、おば様(蝶子)をお嫁にもらったらどうかと

問いかけるが、奥村はてんでその気はない。

逆に慎一君と一緒になるのがいいのではないか

と言い返される。

私の結婚よりも、まずはあなたの結婚だ、

と奥村は娘の千春にいうのだった。

 

千春はバレエを続けるために、

鵠沼の家から東京へ出たいと考えているが

なかなかうまくゆきそうもない。

 

バレエ教室ではうまく踊れなくて

女教師に叱られ、落ち込んでしまう。

そんな千春を慰める慕う呼ぶ新子だった。

実は新子も慎一を一目見たときからほの字になっていて

千春に対して心ならずもやきもちを焼いているのだった。

新子にしてみれば、

千春も好きだし慎一も好きなのだ。

非常に苦しい心境であった。

そんな新子を千春は「シンデ」と呼んで可愛がっている。

「シンデ」というのはシンデレラという意味だ。

 

新子(シンデ)     千春

 

慎一と千春は、

互いの親をくっつけるにはどうすればよいかと考える。

結論として、

まず自分たちが結婚すればいいということになり、

いつ頃式を挙げようかなどと、

ロマンスの欠片もない雰囲気で話し合うのだった。

そして、さっさと神社に出かけ結婚式の予約を入れる。

 

蝶子が亡夫の墓参りにやってくると、

偶然、奥村も亡妻の墓参りに来ている。

慎一と千春が婚約したという話になり、挨拶をかわす。

蝶子は奥村と一緒になることを強く願っているが

奥村にはそんな気はてんでない。

二人の話はかみ合わないままに終わる。

 

奥村に嫌われたと持った蝶子は、

意気消沈し部屋に籠ってしまう。

 

それを心配した慎一と千春は奥村と話をする。

奥村は、自分は決して蝶子を嫌っているのではない。

しかし自分のような、

偏屈で個人主義的な男は結婚する資格はない、といいだす。

ならば、その説明を直接奥村から蝶子に話をしてほしい、

と真一と千春はいいだす。

奥村は仕方なくそれを引き受ける。

 

慎一と千春は二人を引き合わせ、

タクシーに乗せて百科庭園へ運ばせ

二人きりにさせる。

そこで蝶子は奥村に心の内を話し、

奥村は、最初はそれを受け入れないが

蝶子の真心に触れて結婚することを承諾する。

 

蝶子    奥村

 

新地と千春は二人を新婚旅行に送り出して、

これまでのように、

せわし気に夫婦のように一緒に歩きながら

それぞれの用事をこなしに、

交差点で別方向へと歩いていくのだった。

 

 

背景に映りこむ昭和の家、家具、台所用品、

なんだかすべてが

懐かしい気になる。

奥村と千春は鵠沼に住んでいる。

奥村の兄は会社の社長で、奥村は

ケンブリッジ出の秀才だ。

しかし、まともに働いたことがない。

奥村の兄にいわせるとブルジョアということになる。

 

男女の機微、嫉妬、野心…

それぞれが自分なりに懸命に生きている。

そのすべてを許容する物語。

ユーモアに富んだ素敵な映画だと思う。