監督 デヴィッド・クローネンバーグ

ハヴァナ・セグランド(ジュリアン・ムーア)

クラリス・タガート(サラ・ガドン)

アガサ・ワイス(ミア・ワシコウスカ)

スタッフォード・ワイス(ジョン・キューザック)

クリスティーナ・ワイス(オリヴィア・ウィリアムズ)

ベンジー・ワイス(エヴァン・バード)

ジェローム・フォンタナ(ロバート・パティンソン)

キャリー・フィッシャー(本人)

2014年/アメリカ、カナダ、フランス、ドイツ

 

秘密のある夫婦。

過去のある家庭。

悩める女優。

子役から脱皮したい少年。

戻ってきた少女。

ぬめりとした肌触りの恩讐がよみがえり

どろりとした幸福な瞬間へと

つながっていく。

 

お勧め度

★★★☆☆

 

 

フロリダから来た少女アガサ。

ロス・アンジェルスは7年ぶりだ。

 

アガサ

 

リムジンタクシーの運転手

ジェローム・フォンタナの車に乗る。

ジェロームは俳優志望、

脚本も書いている。

でも売れてはいない。

 

ジェローム

 

アガサが車を向けたのは

映画『いけない子守』の子役スター、

ベンジー・ワイスが住んでいた場所。

今は廃墟のようになっている。

 

ベンジーは13歳になっている。

かつてのヒット作『いけない子守』の続編に出演し、

ドラッグ中毒からの再起を図ろうとしていた。

 

ベン時

 

ベンジーは、不治の病と闘うキャミーを見舞う。

売名行為だ。

 

キャミ―

 

病名を間違えてキャミーに訂正される。

気まずさを紛らわすために

「君の人生を映画にしてあげるよ」

などとその場かぎりのリップサービスを繰り出す。

それをマネージャーが本気にして、

話を進めようとすると、ベンジーは

「あんな話、嘘に決まっている。

自分の尻もろくに拭けもしない

能無しのくせしやがって!」

とののしる。

傲慢で他人の気持ちを考えない少年。

そのくせ、自分のキャリア形成には

びくびくしている。

 

ベンジー        マネージャー

 

アガサは、

女優のハヴァナ・セグランド

の秘書になる。

キャリー・フィッシャー(本人)の紹介だ。

 

 

アガサと初めて会ったとき

ハヴァナは彼女をとても気にいる。

 

アガサ       ハヴァナ

 

ハヴァナは、

過去に賞を取ったこともある名女優だが

キャリアの危機に見舞われている。

そして、少女期のトラウマに悩んでいる。

母親は往年の大女優クラリス・タガート。

ハヴァナは幼いころ、母親に虐待されていた。

 

キャリアをかけて、母親クラリスが主演した映画

『盗まれた水』のリメイク版の

主役を狙っているが

強力なライバルがいる。アジタだ。

寝ていると、母親の若い頃の幻影が現れる。

「お前には才能がない。

私の役をやるって? 役は取れない」

ハヴァナは精神的不安定に襲われている。

すぐに感情的になる。

 

ハヴァナの母親(幻影)

 

ハヴァナは精神科医

スタッフォード・ワイス博士の

治療を受けている。

スタッフォード・ワイス博士は高名な医師だ。

 

ハヴァナ     スタッフォード

 

スタッフォードは、

実はベンジーの父親である。

ベンジーの母親のクリスティーナは

ベンジーのマネージャーを務めている。

この父親と母親には

他言できない秘密がある。

 

クリスティーナ

 

そして、アガサはベンジーの姉なのだ。

当然、両親はベンジーと同じである。

 

アガサはなぜ、親元を離れて

7年間もフロリダにいたのか。

何の目的でロス・アンジェルスへ戻ってきたか。


ベンジーが見舞いに行って

ほどなくしてキャミーは死ぬ。

その晩、ベンジーが寝ていると

キャミーが現れる。

じっとベンジーを見つめる。

 

キャミ―の幽霊

 

ベンは怯え

「映画は作るよ」

というが、キャミーは独白する。

「学校のノートや机や木々に、

砂の上や雪の上に、

君の名前を書く」

 

アガサには顔の下側面から

首にかけて火傷の跡がある。

腕は長い黒革の手袋をして

やけどの跡を隠している。

アガサは薬を大量に飲む。

キャミーと同じセリフを呟きながら。

「学校のノートや机や木々に、

砂の上や雪の上に、

君の名前を書く」

 

レストランの中、

アガサは、リムジンの運転手の

ジェロームを誘惑する。

ジェロームは、困ったような顔をして

付き合っている人がいる、

といってアガサの誘いを断る。

アガサは怒り「ファック・ユー」

と言い残し店を出ていく。

 

ハヴァナはスタッフォード博士の

施術を受けているときに

新しく雇った少女の話をする。

火傷の痕、フロリダ、という言葉から

アガサが戻ってきたと知るスタッフォード。

その晩、話を聞いた妻のクリスティーナは

怯える。

「家に来たらどうするのよ!」

アガサの母親であるクリスティーナは

何をそんなに怯える必要があるのか。

ヤリ手のマネージャーという顔を持っているが

その精神はいびつに歪み、病んでいる。

 

クリスティーナ

 

ハヴァナが切望していた『盗まれた水』の

主役はアジタに決まる。

ハヴァナよりもきれいで若い。

 

店の前で、ハヴァナ、アガサ、

ジェローム、アジタの4人が

顔を合わせる。

ハヴァナは、アジタにお祝いをいう。

「主役に決まっておめでとう」

ぎこちない挨拶。

アジタには小さな男の子がいる。

とてもかわいらしい顔をしている。

「キュートな子ね」ハヴァナはいう。

微笑むアジタ。

 

その数日あと、アジタの子が急死する。

プールに落ちて溺死したのだ。

そのためハヴァナに役が回ってくる。

殊勝なふるまいをするハヴァナだが、

内心は喜びでいっぱいだ。

 

ベンジーは撮影現場にいる。

相手役の子役がいけ好かない。

馘にしてくれと母親に頼んだりもする。

当のベンジーは、自分がいけ好かない少年

と思われているという自覚がない。

病識がないタイプ。

 

アガサはベンジーに会うが、拒否され、

その後、父親にも会うが

金を渡されてフロリダへ帰れ、と突き放される。

 

ベンジーは撮影現場でキャミーの幻影を見て

錯乱して問題を起こし、役を下ろされる。

アガサは精神状態の悪いハヴァナに振り回される。

ベンジーは再び麻薬に手を出し

アガサはハヴァナに対して怒りを抱く。

クリスティーナの錯乱は激しさを増していく。

 

アガサ、ベンジー、クリスティーナ、

スタッフォードの4人のもと家族は

破滅の道へと進んでいくのだった。

 

 

まともな人物はリムジン運転手のジェロームぐらいだろうか。

あとは、みんな病気である。

 

 

「夜な夜なの小石の上に、

日々のパンの上に、

結ばれた季節に君の名を書く。

学校のノートに、

自分の机や木々に、

砂や雪の上に君の名を書く。

肯定する肉体のすべてに、

わが友すべての額に…」

 

この詩は、映画のオリジナルではなくて、

フランスの詩人ポール・エリュアールの詩

『自由』を引用しているらしい。

1941年、ナチスの占領下にあった頃に書かれたらしい。

最後の節はこう締めくくられている。

 

力強いひとつの言葉にはげまされて

わたしは ふたたび人生を始める

わたしは生まれてきた きみを知るため

きみの名を 呼ぶために

 

自由よ