監督 クリスティナ・グロゼヴァ

ペタル・ヴァルチャノフ

ユリア(マルギッタ・ゴシェヴァ)

ツァンコ(ステファン・デノリュボフ)

ヴァレリ(キトダル・トドロフ)

2016年/ブルガリア、ギリシャ

 

現業公務員のツァンコは線路の保守をしている。

運輸省広報部のエリート官僚のユリアは

省の悪化しているイメージを

広報の力で何とか改善しようと躍起になっている。

通常であれば行きかうことの無い

下層と上層の公務員が運命の悪戯で交錯する。

ユリアの傲慢と偏見と軽侮が軋轢を生む。

ツァンコの静かな生活がかき乱されていく。

ツァンコのとった行動とは…。

 

お勧め度

★★★★☆彡

 

 

国内では鉄道車両の転売に端を発した、

汚職問題で運輸省が国民から非難を浴びている。

中年の路線保安員ツァンコは

テレビでそのニュースを聞いている。

粗末な居室、一人で暮らしている。

電話で時報を聞きながら

腕時計の針を正確に合わせる。

ツァンコの仕事は、

ひとりで路線を歩き、

レールの状態を確認していくこと。

正確な時刻を知ることが必要なのだ。

 

 

 

ツァンコ

 

しかし、単純で地味な仕事。

汗が垂れる。

そんな地道な作業を続けていると、

大金が打ち捨てられているのを発見する。

 

 

ツァンコは警察に届け、

その情報が運輸省の高級官僚ユリアの耳に入る。

ツァンコの善意の行動をネタにして

運輸省の抱えている汚職問題のお茶を濁そうと企む。

ユリアは広報部の部長なのだ。

 

ユリア

 

運輸省の担当がツァンコに取材へ行くが

ツァンコは吃音で

担当の望むとおりの受け答えができない。

 

運輸省の室内で、

撮影した映像を見る所員たち。

ユリアもいる。

吃音るツァンコを見て、笑いものにする。

 

ユリアは映像を切り取り、編集をして、

大臣の声をかぶせる。

ユリアは省内でも鑓手の

官僚なのだ。敵も多そうである。

大臣は「誠実で正直なツァンコを表彰する」とTVでいう。

 

飲み屋のTVでそのニュース見ていた同僚たちは

「大ばか賞だな」といってツァンコをからかう。

しかしツァンコは吃音故、うまく言い返せない。

怒りがたまっていく。

店の女将が

「ツァンコをからかうんじゃない!」

といって同僚たちをたしなめる。

 

ツァンコの表彰式の会場。

コレフというユリアと敵対するジャーナリストが

表彰式に来ている。

ユリアは部下に

「ツァンコと接触させないように」と注意を促す。

 

席に居心地が悪そうに座るツァンコ。

ユリアはツァンコがしている腕時計を

問答無用で外させる。

式典の記念品が腕時計なのだ。

それを盛り上げるためには、

ツァンコの腕時計は邪魔なのだ。

そして、ユリアはツァンコの腕時計を持ったまま

会場から立ち去ってしまう。

ツァンコは政治的な思惑に利用されて

その後、パーティー会場へと連れていかれる。

しかし、そこでもぞんざいな扱いを受けて、

途方に暮れるのだった。

 

男 ツァンコ

 

ユリアにとってツァンコはただの道具で

人というよりも

ただの器物でしかない。

そのため、ツァンコの腕時計も、

どうでもよいものだった。

彼女にとって

貧乏人が大事にしている

古びた安物の腕時計でしかない。

 

翌日、ツァンコは運輸省へ電話をかけて

腕時計を返してほしいと訴える。

しかし、ユリアは知らないふりをして

責任を部下に押し付ける。

ユリアは幹部職員ではあるが

人間性に問題がある。

部下からも慕われてはいない。

ツァンコが電話をしてきても

「聞き取れない」といって

一方的に切ったりする。

ツァンコが吃音であることを知っているのに

それを逆手に取る。

 

預かった腕時計を失くしてしまったユリアは

別の時計を適当に用意してツァンコへ渡すが

ツァンコが気が付かないはずがない。

父親の形見なのだ。

 

ツアンコはユリアに抗議するが

ユリアはまともに相手をしない。

どうせ下層階級の労務者風情なのだ。

 

ツァンコはジャーナリストのコレフと会う。

パーティーの会場で名刺をもらっていたのだ。

コレフに腕時計のことをはじめ

内部での不正について話をする。

現業の職員は汽車の燃料を抜いて

転売し小遣い稼ぎをしているのだ。

 

二人で酒を飲んで別れた後、

ツァンコは街娼に声を掛けられて

一夜を過ごす。

 

ツァンコはコレフの仕事場に招かれて

TVに出演し、腕時計のことを訴えることになる。

今度はジャーナリストに利用されるのだ。

 

コレフ        ツァンコ

 

コレフの番組で、

職員が汽車の燃料を抜きとっている話を大臣にしても

相手にされなかったこと

腕時計を強引に預けさせられ、戻ってこなかったこと

をしゃべる。

 

ユリアはその放送を聞いて

早速つぶすための行動へ出る。

ツァンコに謝罪しなければ告訴すると脅す。

 

謝罪を拒否したツァンコのもとに、

ユリアの手配で政府の関係者が押し入り

ありもしない罪を着せる。

そしていうのだ。

「謝罪をすれば見逃してやる」

 

国家の回し者がツァンコを脅す

 

結局ツァンコは謝罪に応じる。

家にいるウサギが心配だったのだ。

水をやらなければいけない。

電話も使わせてもらえない。

ウサギのために、

ツァンコは謝罪する。

用意された文章をどもりながら

読み上げる。

 

その帰り道、

燃料を盗んでいる同僚たちに拉致される。

「おい、誰が燃料を盗んでいるって?」

質の悪い連中。

 

謝罪させて気分上々のユリア。

たまたま見た新聞に、鉄道の保安員が

貴社に飛び込んで自殺したという記事を目にする。

動揺するユリア。

 

ユリア

 

ツァンコが自殺したのでは?

良心がとがめたのか、

ユリアは自殺した人物の調査を知り合いに依頼し

失くした腕時計を探し始める。

 

腕時計は、夫の車の中に落ちていた。

 

(愛する息子ツァンコへ、と記載がある)

 

それをもって、

ユリアはツァンコの家を訪ねる。

出てきたツァンコの顔は殴られた跡が生々しい。

 

ツァンコ

 

怯えるユリア。

ツァンコはユリアの顔を黙って冷静に

にらみつける。

そして、大きなレンチを手に取る。

 

 

高級官僚ユリアの傲慢で高慢なふるまい。

タクシーの中でも、

ラジオを小さくしろ、だの

冷房をもっと利かせろ、などと

運転手に命令をする。

夫はよく我慢して、

このような女と

結婚を維持しているものだと思う。

馬鹿なのかもしれない。

本当に不快な女。

 

批評家やジャーナリストは、

国家のような権威のあるものを批判していれば

安全である。

正義を希求している人物、

と聞く者たちに印象づけることができる。

そして気骨のあるジャーナリスト、

との評価を得ることになる。

計算高いコレフにも嫌悪を感じるのだった。

 

人は決して対等ではないということが

よくわかる映画。