『カスバの女』という歌がある。

「涙じゃないのよ

浮気な雨に

ちょっぴり

この頬濡らしただけさ

ここは地の果てアルジェリア

どうせカスバの夜に咲く

酒場の女の薄情け」

 

 

ジャン・ギャバンが映画『望郷』

潜んでいた街がカスバだ。

カスバは得体の知れない者の

吹き溜まりのような街だ。

やくざ者もいれば娼婦もいる。

映画の公開は、1939年。

第二次大戦前だ。

 

 

エト邦江の歌『カスバの女』は

1955年、テイチクから発表された。

作詞した大高ひさをは

『望郷』を下敷きにして書いたといっている。

 

そして『黄線地帯(1960年)』の登場だ。

この映画では、

神戸の街の一角に「カスバ」と呼ばれる一角がある。

やくざ者、瘋癲、女を買う客、

娼婦たちがうごめく闇の街がカスバなのだ。

黄線=イエローラインとは

女性や麻薬を売買するシンジケートを意味する。

 

 

監督 石井輝男

真山俊夫(吉田輝雄)

衆木一広(天知茂)

小月エミ(三原葉子)

桂弓子(三条魔子)

阿川(大友純)

1960年/日本 新東宝

 

お勧め度

★★★★☆

 

映画は、ボレロ風の

アコースティックギターの音色で始まる。

さすらいの予感する。

街のネオンが冷たい光を放つ。

タキシードを着て歩く男の後ろ姿に孤独の影が射す。

 

 

殺しを請けた衆木は指示どおりに男を殺す。

衆木は表情一つ変えない。

 

その後、残金を受け取りに

約束の場所へ行くが依頼主の阿川はいない。

その時、パトカーのサイレンが聞こえてくる。

騙されたことに気が付き、

衆木は逃亡を図る。

 

衆木

 

税関署長の方針で麻薬の売買が厳しくなり

商売に支障をきたした阿川は、

殺しを衆木に依頼したのだ。

 

衆木が殺した男は、神戸税関の所長だった。

新聞にも大きく報道される。

衆木は、自分が殺す相手は、真人間を踏みつけにし、

その生き血をすすっているような

悪党と決めている。

それが、騙されて真人間を殺す羽目になった。

しかも、残金の代わりにパトカーを差し向けてきた。

衆木は阿川に復讐を誓う。

 

新聞社に勤める真山は

電話で恋人のエミと話をしている。

エミは東京駅近くの電話ボックスだ。

そこに衆木が通りかかり

エミに目をつける。

エミを脅かし一緒に神戸へと旅立つ。

エミは神戸に行く予定だったのだ。

 

エミ

 

時間すれすれに、

東京駅に見送りに来た真山は

エミを見つけることができなかった。

 

真山は新日本芸能新社が

踊り子を募集していたことを調査する。

そこにエミも応募していたのだ。

多くの応募があったが、

会社はどこかへ消えてしまう。

何かがおかしい、と真山は思う。

 

真木       エミ

 

真山は神戸で巷間噂になっている

「黄線地帯」の取材を

デスクに掛け合う。

黄線地帯とは闇の麻薬密売組織のことだ。

日本芸能新社も絡んでいるとにらんだのだ。

デスクは承諾し、

神戸税関の件も調べてくるようにいう。

 

真山は神戸に乗り込みエミを探す。

一方、衆木はエミと一緒にホテルに一室に

こもる。

ぽつりぽつりと会話を交わすうちに、

衆木とエミは次第に相手の

人柄が理解できるようになっていく。

 

衆木は自分をだました男 阿川を探す。

麻薬の売買にかかわっていると衆木は睨んでいる。

 

真山も少しずつエミの手がかりをつかんでいく。

 

やがて、衆木は阿川をとらえる。

その男はいう。

「俺はボスから頼まれただけなんだ」

 

衆木はその男にボスの自宅を案内させる。

その途中に真山がエミの姿を目にして

後をつけ始める。

 

阿川のバックにいたボスの意外な素顔とは。

衆木の怒りが爆発する。

 

衆木

 

天知茂の陰に籠った表情がぞくぞくする。

爬虫類のような目つき。

青白い顔。

絶えずあたりを警戒している。

狡猾で抜け目のなさそうな性質。

 

衆木の印象的だった科白

「俺は誰も信用しねぇ」

「恋愛など、足の速い食い物みたいなものだ」

 

エミ         衆木

 

「カスバ」の街の見せ方が

ジャン・ギャバンの『望郷』のようで

よくできていたと思う。

 

天知茂は、

闇の世界の住人を演じたとき

輝く俳優だ。

『地獄』でも、

この世にいるときよりも

地獄に落ちてからが

躍動感に満ち、

はつらつとしていた。

面白い俳優だ。

もっと彼の映画が見たくなった。