監督 ラース・フォン・トリアー

ジャック(マット・ディロン)

ウェルギ(ブルーノ・ガンツ)

女性1(ユマ・サーマン)

女性2 (シオバン・ファロン)

女性3(ソフィー・グローベール)

シンプル(ライリー・キーオ)

デンマーク、フランス、

ドイツ、スウェーデン/2018年

 

デンマークの監督のラース・フォン・トリアーは

1994年に病院を舞台にしたテレビドラマ

『キングダム』を監督し、

大ヒットとさせた人。

 

1996年、『奇跡の海』を発表して

第49回カンヌ国際映画祭で

グランプリを受賞した。

 

 

ジャックは建築家になりたかった。

しかし母親が「賃金がいいから技師になれ」

といったので建築技師になった。

 

ジャックがバンを運転していると

パンクした車が止まっている。

助けを求める女(ユマ・サーマン)。

 

ユマ・サーマン

 

ジャックは、最初は親切に車に乗せてやるが、

女がしゃべりすぎ、うるさい。

「知らない人の車に乗ってはいけないと母親にいわれた」

「あなたは殺人鬼かもしれない」

女はジャックを挑発するようにいう。

そして、

「撤回するわ。

あなたは人を殺すなんて度胸はないでしょう?」

この一言がジャックの気に障る。

ジャッキで女の顔を何度も殴り殺してしまう。

 

マット・ディロン

 

二人目の犠牲者の女(シオバン・ファロン)は、

半年前の夫を亡くした年配の女性。

その家を訪問する。

 

シオバン・ファロン

 

最初は警官というが、

女性に疑われて話を変える。

「実は年金の件で話に来た」という。

疑い深かった女性は

年金額が上がるという話を聞いて、

ジャックを家に入れる。

そのとたんジャックは豹変する。

「ドアのところで長いこと立ったまま

問答させられた」

「この俺をてこずらせやがった」

女性をののしり始める。

(この異常性。

自己中心的なふるまいは見ていて不愉快になる)

女性は恐怖に震える。

 

 

その女性を殺し、シートをかぶせ

紐でぐるぐる巻きにする。

ロープを車の後に縛りつけて

引きずって走り出す。

そして、所有する冷凍倉庫へ戻る。

ピザ屋から買い取ったという冷凍庫だ。

道路には死体がこすれて血の痕が

目印のように付いている。

逃げてきた道筋が一目で分かってしまう。

一瞬、ジャックは唖然とする。

すると突然豪雨が降る。

血の痕を消す。

ジャックはそれを神の祝福と感じる。

(感性が歪んでいる)

 

ジャックの行動は止まらない。

冷凍庫に死体がたまっていく。

 

母子とピクニックへ行く。

男の子が2人。かわいらしい。

上の子はジャックになついている。

ジャックは子供と遊ぶのが上手だ。

頼りがいのある堂々とした立ち振る舞い。

口もうまい。

優し気なほほえみ

母親もジャックに親しみを持っている

 

ところが、ジャックは豹変する。

母子3人を獲物にしてライフルで狩りをしだす。

 

 

逃げ惑う3人の母子。

3人を撃ち殺し

並べて誇らしげにほほ笑むジャック。

獲物をしとめた猟師のように見える。

(まさしく異常である。狂気)

 

ジャックの行動はエスカレートし、

殺しを続けていく。

付き合っていた少し頭の弱そうな女。

名前はシンプル。

彼女も殺す。残忍な方法で。

切り取った乳房の皮を使って財布を作る。

 

ライリー・キーオ(シンプル)

 

ジャックは、どこまで殺していくのか。

買った土地に自分で家を建て、

途中で壊すことを繰り返している。

どんな家ができるのか。

ジャックにとって「家」とは、

自身の「行い」のことではないのだろうか。

 

 

ジャックは殺しのときには

狡猾で計算された行動をとる。

相手の動きを予想して、

先手にまわる。

隙をつく。

気持ちを翻弄し、戸惑わせ、

一気に襲い掛かる手法は見ていて身震いする。

 

見ていてつらくなってくる。

カンヌで上映されてときに

途中で席を立つ人が多かったというのもうなずける。

 

「叫べばいい。いくら叫んで助けを求めても

帰ってくるのは沈黙だけだ」

恐ろしい科白だ。

襲われた者は絶叫するしかない。絶望と恐怖の中で。

 

カメラが揺れ、焦点ぼやける。

見ている者の精神的安定も揺らいでいく。

 

物語の進行を主人公が演劇的に

説明するシーンが挿入される。

ハリウッド映画のメソッドに則らない作成手法が

展開を予想することを困難にする。

 

芸術と宗教と倫理に関するやり取り。

「芸術は人を物と化す。倫理は芸術を破壊する。

宗教は人を閉じ込める」

 

建築物、戦争、絵画が象徴的に挿入されて

映画に奥深さと混沌を与えていく。

映画はそれを解説しない。

見る者に解釈を任せる。

神経を逆なでするような映画。

 

ブルーノ・ガンツが主人公ジャックの導師のような

役回りで出てくる。冥途への水先案内人のようだ。

 

 

ブルーノ・ガンツ

 

主演はマット・ディロン。

1980年の『リトル・ダーリング』

『マイ・ボディーガード』で青春さなかの不良役を演じ、

3年後に『アウトサイダー』『ランブルフィッシュ』で

孤高のアウト・ローを演じた。

『ドラッグストア・カウボーイ』では

ジャンキーを演じていた。

マット・ディロンがこのような

異常なサイコパスを演じるとは、面白い。