中上健二原作、柳町光男監督脚本。
柳町光男は『さらば愛しき大地』の監督だ。
『19歳の地図』は『さらば―』を撮る前の作品。
1970年代後半、東京、王子。
新聞配達をする鬱屈した青年吉岡、19歳。
配達先の点数を、勝手につけている。
気に入らない配達先で「バツ2つ」とか
「バツ3つ」とかランク付けをしているのだ。
吉岡は、配達先の玄関の脇に
置かれている鉢植を
踏みつけにして憂さを晴らし、
人の家に配達されている瓶牛乳を勝手に飲む。
ひねくれてひがみ根性の強い人間だ。
ゴミゴミとしたうらぶれた住宅街を
駆け足で新聞を配達する。
吉岡
新聞屋の配達所のメンバーは
それぞれの事情を抱えて働いている。
吉岡は、昼間は代ゼミに通う受験生だ。
だが、勉強などはほとんどしていないように見える。
無目的で心が荒んでいる。
新聞屋の部屋では今野と同室だ。
今野
今野は中年のむさい男で、
故郷の四国では釘師をしていたらしい。
胸に中途半端な入れ墨をしている。
痛くて途中で辞めたという噂だ。
暇な時間はいつもパチンコ屋で遊んでいる。
昔の話を吉岡に語るが、吉岡は信用していない。
今野のいうことには
虚実入り混じっている。
釘師をしていた話も本当かどうか怪しいものだ。
近所の夫婦喧嘩の女の叫び声や
皿の割れる音を聞いて
涙ぐみながら今野はいう。
「どういう風に生きていったらよいかわからないな」
今野にも、過去があるのだろう。
しかし、吉岡はそんな今野を
うんざりした目で見ている。
吉岡
バツを付けた家へ
公衆電話をから悪態をつき罵倒する。
すっきりした気持ちになる吉岡は、
自分を「右翼」と定義づける。
今野が折に触れ、言っていた
「マリア様」に会わせてもらう吉岡。
その女は、依然見たことがあった。
子供たちに石を投げつけられていた
少しいかれた女だ。
マリア
マリア様は古びたアパートの2階に住んでいる。
左足が悪い。
昔飛び降り自殺をしたが死ねなかった。
マリア様は悟ったような
すねたような生き方をしている。
都会の片隅のうらぶれたアパートに住む
マリア様は今野のマドンナなのだ。
今野はマリアを抱きながら
「どういう風に生きていったらいいのかわかないな」
とつぶやく。
「自分のために傷ついて、他人のために傷ついて、
かさぶただらけになる。
俺のマリア様は醜いかさぶただらけのマリア様なんだ」
今野はそういって自分のやさしさを吉岡にアピールする。
吉岡は、今野の偽善的な自尊心を嗤う。
日々新聞を配りながら、
着々と住民の情報を蓄えていく。
気に入らない家に、電話をかけて
脅迫めいたことをいって
憂さを晴らす吉岡。
今野は八百屋に盗みに入って捕まる。
結局、どうしようもない男だったのだ。
吉岡は、新聞配達している地域の地図を書き上げる。
それを壁に貼って満足そうに眺める。
そして呟く。
「どういう具合にいきていったらいいのかわかないな」
駅に脅迫電話をける。列車を爆破するという。
しかし、吉岡に、そんな能力はない。
何もできない。
相変わらず、吉岡は新聞を配りつける。
他にやることが思いつかない。
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吹き溜まりのような新聞配達店。
若くして停滞した人生。
主人公の焦燥感と怒り。
何に向けて怒りなのか、本人にも理解できない。
もがき苦しむ。解決の糸口はない。
この青年は今の状況を変えることができても
しあわせな人生は送れないだろうなどと考えて
暗澹とした気持ちになる。
映画の中で、
粉石鹸の箱を抱えて集金にまわる主人公。
昔の新聞屋はよく景品を
持ってきたことを思い出した。
洗剤のほかにも、ビール券、
商品券、トイレットペーパー…。
竹田かほりがちらりと高校生役で出ている。
ちゃんと映っていないのが残念。
左 竹田かほり
それにしても主演の男優の
漢字の書き順がめちゃくちゃで
素養は大事にしなくちゃな、と思った。
お勧め度
★★★☆☆
監督 柳町光男
吉岡(本間優二)
今野(蟹江敬三)
マリア(沖山秀子)
新聞屋の親父(山谷初男)
和子:新聞屋の女房(白川和子)