映画の基になったのは、松本大洋の漫画短編集『青い春』。
若いころの松田龍平、今大変な新井浩文。
二人とも若くてがほほえましい。
瑛太が脇役でちょこんと出ている。又吉直樹もシンナー中毒の高校生役で出ている。
屋上への扉の鍵を開けようとする九條と青木。
九條がカギ穴に針金を刺し開錠する。外の明かりが差し込む。
高校の荒れた屋上、「幸せなら手をたたこう」の落書き。
朝日高等学校卒業式、校舎から教師が逃げてくる。あとを追う生徒たち。教師はタクシーに飛び乗り運転手をせかしてスタートさせる。教師を追いかけてきたのは卒業したばかりの不良生徒たち。恨みを晴らすために痛い目に合わせようとして追いかけてきたのだ。
私にも高校のとき、殴り倒したい教員が数人いたものだ。
その様子を屋上から見て笑っている2年生たち7、8名。こちらも質の悪い部類。九條と青木も入っている。
屋上の手すりの外側に立って肝試しをする。ベランダゲーム。落ちたら死ぬ。「ひとーつ」といって一回手をたたいて柵につかまる。
「ふたーつ」「みーっつ」と数が増えていく。
数が多い方が勝ちで、その年の番長になる。
くだらない肝試し。勇気の勘違い。それでもしてしまうのは、若さと無分別の勢いのせいだろう。若いというのは、バカで恥ずかしいことでもある。
九條が学校の番長となる。しかし冷めている。
番長らしくない。威勢を張らないからだ。
青木は気が気でない。2年目になめられていると感じている。
青木が便所でくそをしているときに2年目が入ってきて「くっせえ」「貯めんじゃないよ」「流せよ」「家でして来いよ」などと大声で馬鹿にし、最後にはバケツで水をかける。
怒った青木と九條ら数名は金属バットでもって2年目を叩きのめす。青木はドジを踏むが、九條の冷徹さ残忍さには目を見張る。
学校の屋上で青木の髪の毛を切る九條。この二人は何をしているのだろう?授業はいいのか?
「卒業したらどうするの?」と九條は青木に聞く。
「俺たちは、進学は無理だなあ」などと青木はのんびりしている。
「マグロ漁船にでも乗って稼ぐ?」青木は能天気である。
雪男(ゆきお)が教師に「このままでは卒業できないぞ」と言われている。雪男は無表情。
「何がしたいんだ?どんな仕事がしたい?」と教師は真剣に聞くが、雪男は「漠然と、世界平和とか望んでいます」と答える。
ふたりの間の距離感が一気に広がる。
校庭の桜の木に花が咲いていて、幹にたくさん張り付いているサクラケムシを取っている生徒がいる。
その様子を屋上から見て「あいつの前世は桜だったんだよ」という雪男。サクラケムシから桜の木を守っているのだ。
雪男の隣には九條。ふたりで屋上から校庭を見下ろしている。
雪男が「おまえ学校好きだろ」というと九條は「ここは天国だよ」と答える。
何もやることが見つからないけれども、ここにいれば何もしなくて済む、ということだろうか。いつまでもこの状態が続けばいい。九條の虚無感は深いのかもしれない。
野球部の部室では2人がマージャンをしている。学ランと野球のユニフォーム。学ランの方は先輩で、甲子園への夢が断たれたばかりだ。
雪男が便所で同学年の大田を殺し、大田から教わったギターの曲を階段で弾いている。そこへ教師がやってくるが動じない。
殺したということをまだ知らない教師が「構内で喫煙とはいい根性だ。覚悟はできているんだろうな」
というと、教師の目を見て「ピース」とサインを出す。
その後、雪男は警察に連れていかれる。
それをしり目に、校内では淡々と授業を行っている。
校内で殺人事件が起こったのにふつうは授業が中止になるだろう。なんという学校だろう。
学ランを着ていた野球部の先輩部員は甲子園に行けない傷心を抱えたまま、やくざの世界に入っていく。「このくそみたいな高校とはおさらばだ」とつぶやいて。
校庭の塀を乗り越えて外の世界へ出ていく。出ていくときに屋上を見上げる。九條がいる。九條が気付き、塀を乗り越えて出ていく生徒をちらりと見やる。出ていく生徒は軽く九條に合図を送る。
九條は相変わらず人生に飽きている。青木は2年目になめられているのが我慢ならない。あいつらをしめよう、と九条を誘う。
2年目のレオに焼きを入れる。ベランダゲームで九條がレオを負かし、青木がバッドで殴りつける。その様子を見ていた九條は、うんざりした表情で立ち去ろうとする。すると、青木が九條に「おまえはまだしめていないじゃないか」と文句をいう。
すると九條は「2年棒くらい自分で始末つけろ、俺ばかりに頼るんじゃない」と言って立ち去る。憮然とする青木。
ある朝、青木は九條に対抗するため髪形を変え子分をふたり引き連れ、登校してくる。
青木は校内で暴れだす。気に食わないものを次々に血祭りにあげ、教師たちに反抗し授業妨害をし始める。
九條はそんな青木を見ながらも相手にしようとはしない。
そんな二人がついに殴り合う。勝負はつかないが、九條が青木に言う。
「おまえには無理だ」
気持ちの優しい青木には冷徹になることは無理だということなのか。
しかし、青木は立ち去る九條の背中に、「おまえにできないことをしてやる」と叫ぶ。
青木は屋上に上る。ガーデンゲームをする最上階だ。
夕方になり、だんだん暗くなり、夜中になり、朝が来る。一晩屋上で過ごす。
生徒たちが登校して来る。
小人の花田先生もいる。九條もいる。
九條が校門を入ると、青木の声が聞こえる「ひとーつ」。
青木は1人でガーデンゲームし始めたのだ。
九條と小人先生は校舎に向けて走り始める。青木を止めなければいけない。青木は死ぬ気だ。
階段を必死で駆け上る九條。
九條と青木は、小学生のころからの友人なのだ。九條が昔のことを思い出す。画面に幼いころの九條と青木の声が重なる。あどけない幼い声が心にしみる。
九條が屋上へたどり着いたとき、青木は下へ落ちていく。18年間の人生。
屋上には青木がペイントした、人が鳥になって空へ飛び立つような図柄が残されていた。
青春の有り余るエネルギー、行き所のない焦燥感、誰に向けてよいのかわからない憤怒。
高校生の時期は、人生で最初に「自分は年を取った」と感じるときではないのだろうか。
監督 豊田利晃
九條(松田龍平)
青木(新井浩文)
日本/2002年