護り人と好敵手〜青年編⑤ | シンイ〜甘味処

シンイ〜甘味処

韓国ドラマのシンイにはまり、無謀にも自分で二次を書いてしまいました。
素人の書く拙い話しです、お暇なときに読んで
くすっと笑っていただけたら嬉しいです



護り人と好敵手〜青年編⑤












「ただいま戻りました。」

日が暮れて夕餉の前に
チェ・ヨンが帰宅すると
何時ものように親子三人で出迎える。

「ちちうぇーおかぇりなちゃい。」

廊下をパタパタとお嬢が走り
ぽふんっとチェ・ヨンの足に飛びついた。

落ち着いている嫡男は父親をみると
頭を下げ、お役目ご苦労様です。
と大人びた出迎えをする。

「ヨンァ、おかえりなさい。」

ウンスがにこやかに出迎え
鬼剣を受け取る。

「ああ。」

短く返事をすると使用人がきて
直ぐに食事の用意をする。
夕餉をとりなら母娘が
王宮での1日を面白おかしく
チェ・ヨンに報告してきた。

「しょりぇでね〜
とぎとやくそーをあらったの。
ちょにちのおみじゅで
ばちゃばちゃってー。」

「そうか。でも、ほどほどにな。
まだ水は冷たい。
風邪ひいたら困るだろう。
皆も心配するぞ。」

「あぁーい。」

お嬢の頭を撫でて優しく諭す。

「そうなのよ。
水浴びにはまだ早いし
トギの邪魔になるからと言っても
聞かないのよね。
周りもこの娘には甘くて。
家で留守番させようと思っても
王妃様に連れて来なさいと言われたら
断れないし・・」

頬に手を添え
困ったと訴えるウンスを
ちろりと横目で見遣り無言になる。

帰宅した時からチェ・ヨンの様子が
どうもおかしい。

「何、如何したの?」

「・・・・」

ウンスが問いかけても返事がない。

父の機嫌がすこぶる悪いと
聡い息子が早々に夕餉を切り上げ
妹を連れて居間を下がる。

「父上、母上。
私は妹に本を読んであげる約束を
しておりましたのでお先に失礼します。」

「あにうえー、
ごほんよんでくりぇるのー?」

嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねながら
兄の後についていった。

子供達が出ていくと黙々と
夕餉を食べるチェ・ヨンに声をかける。

「ねぇ、どうしたの、
王宮で何かあった?」

ウンスの顔をジッと見つめると
静かに箸を置く。
表情の分からない顔を
覗き込むウンスの手首を掴むと
すっくと立ち上がる。

そのまま無言で
ウンスの手首を掴んだまま
強引に寝屋へと引っ張って行く。

ぱたんっと扉を閉めると
ウンスの正面に立ち
胸元をじっと見つめる。

「それは何です。」

「へっ?  なに?」

チェ・ヨンの視線の先には
蝶のノリゲ。

「ああ、これ?
可愛いでしょう。
いつもお世話になってるからって
ジンがくれたの。」

「・・そうですか。」

可愛い弟がくれた贈り物が
嬉しくてたまらないと満面の笑みで
チェ・ヨンに告げてくる。

「俺が買って差し上げたノリゲはどうしました。」

「あるわよ。
無くさないように大切にしまってある。」

無意識のうちに責めるように問うと
ウンスは胸元から
牡丹のノリゲを取り出した。

は、と短く息を吐くチェ・ヨンを
不思議そうな瞳で見つめているウンスを
ぎゅっと抱き寄せる。

細い首に顔を埋めると
ウンスの甘い香りを思い切り吸い込む。
抱きしめられたウンスは
それが嬉しくて
細い腕をチェ・ヨンの腰にまわし
ウンスもぎゅっとしがみついた。

「・・俺はとても心の狭い男です。
イムジャが俺の知らない物を
その身に纏っているだけで・・・
どうしようもなく胸が騒つく。」

「・・・・え?」

夫婦になって何年にもなるのに
こんなにストレートに気持ちを
ぶつけてくれるチェ・ヨンに
驚きを隠せない。

それでも、
その言葉が飛び上がるほど嬉しい。

「ごめんね。
・・ジンからの贈り物だから
良いかと思って。
それにこんな  おばさんには
誰も興味ないわ。  
好いてくれるのはヨンァだけよ。」

片目を瞑り口を尖らす
可愛らしい姿を見ればどんな男も
心を惹かれると
分かってないのはウンスのほうだ。

鈍さに  ため息が漏れる。

「何時までも好きでいてくれて
ありがとうヨンァ。
・・・私も大好き。」

脱力してるチェ・ヨンに
不意打ちの甘い爆弾が落とされる。

チェ・ヨンの中で何かが外れる音がした。

ーー畜生、歯止めがきかぬ。







心地よい疲れに身を委ね
腕の中に囲う柔らかな身体が
暖を求めて すり寄ってくる
滑らかな脚を自ら絡ませ
甘い吐息がチェ・ヨンの胸元を
しっととりと濡らす。

ウンスの脚がすりすりと動く度に
意識がはっきりしてくる。
昨夜愛し合った余韻を思い浮かべ
瞳を開けるとウンスの頬に唇を寄せた。

「・・・」

ウンスの唇がむにゅむにゅと動いている。

また何か食い物の夢でも
見ているのかと思ったら
何か言っている。

「・・ヨ・・ン・・・」

名を呼ばれた。

夢の中でも一緒に居るのかと
嬉しくなり返事を返す。

「何です。」

寝ている筈なのに
チェ・ヨンが返事をすると
とても嬉しそうな顔をする。

「何ですか、イムジャ。」

「・・好・・き・・」

ウンスは夢を見ていた。

暖かな揺りかごの中に横たわり
微睡んでいると
大きな手が髪を撫でてくる。

優しい優しい手付きで。

私はこの手を知っている
絶対にあの人。

大好きな大好きなあの人
ヨンァ・・
泣きたいぐらい・・大好きよ。









普段から無表情なチェ・ヨンだが
今朝は何処か機嫌が良かった。

帰りも早々に典医寺に迎えに来ると
珍しくマンボの店で
クッパを食べて帰ろうと誘う。

「本当に?  嬉しい!」

「はい。
書堂にはテマンに迎えに行かせました。
二人も後から来ます。」

「うわぁ・・家族が勢ぞろいね。
テマンも一緒で嬉しいわ。」

喜ぶウンスの足元でお嬢も
飛び跳ねている。

「てまなもいっちょ?」

「そうよ、兄上とテマンも一緒よ。」

うふふと笑いながら答えると
お嬢を抱き上げた。

「俺が抱こう。」

このところ重くなった娘を
片手で抱き上げウンスの手を握り
日が暮れる前にマンボの店へと向かう。  



「こんにちはーー。
マンボ姐さんいますか?」

「こんちきはーー!
まんぼのおばたんいまちゅかー。」

チェ・ヨンの両脇から
賑やかな声があがる。

「んもぉ。真似っこしないの。」

何でも母親の真似をする娘に苦笑い。

店に入るとテマンと息子に
スリバンの面子が勢ぞろいしていた。

「おやっ、ヨンに天女。
遅かったね。若はもう来てるよ。」

湯気の立つお椀をもった姐さんが  
クッパを用意してくれた。
チェ・ヨンがお嬢を下ろすと
スリバン達の集う卓へと走る。

「じーん。だっこ。」

ジンの膝に両手をついて見上げてくる。

「ちぇっ、またジンかよ。
偶にはシウルおじちゃんが
抱っこしてやるぞ。」

「いーの。じんにだっこちてもらう。
そりぇでしうるおじたんに
くっぱをあーんちてあげゆの。」

「おっ、また食わしてくれんのか?」

「うん。しうるおじたんも
じほおじたんもかじょく。
だいじ、だいじよ。」

お嬢の言葉に二人も満面の笑みだ。

「こんな奴らが家族でいいのかねぇ。
あんたらもお嬢の家族になるなら
もっと仕事が出来なきゃね。」

「ちげぇねぇ。
明日から倍は働いてもらわねぇとな。」

「「なんでそうなるんだよ!」」

クッパを運ぶ姐さんと師叔が
二人を揶揄うと抗議の声を叫ぶ。
その姿にどっと笑いがおきる。

クッパを食べ終えるとチェ・ヨンが
剣を取り立ち上がりスリバン達に
声をかけた。

「偶には稽古するか?」

「「やる、やる!」」

シウルとジホが喜び勇んで裏庭に走る。
それを見たジンも
お嬢をウンスに預けて剣を握った。

「母上、私も見学して宜しいでしょうか。」

若は滅多に見れない父親の
剣を振るう姿を見たくてうずうずしている。

「うーん・・邪魔にならないようにね。
でも、クッパはきちんと食べなさい。」

「はい!!」

何時もは大人ぶっている息子の
子供らしい姿に笑顔が溢れる。

父親の勇姿が見たいのだろう
夢中で匙を動かしている。
食べ終わると同時に
ご馳走様でした、と叫び
裏庭へと走り出した。


若が裏庭に着くと
既にシウルとジホが裏庭の片隅で
ぐったりと座っている。

息を整えるので精一杯。

「来い。」

息ひとつ乱れずに呼ぶ。
ジンはお辞儀をすると剣を構えた。

丁度ジンとの稽古が始まるところだった。