アンギオテンシンⅡは主に腎臓を介して高血圧を惹起する
アンギオテンシンⅡはAT1受容体を介して高血圧を惹起するが、その際にどの臓器のAT1受容体がもっとも重要かを明確に示したマウスを用いた動物実験がある。
まずAT1受容体ノックアウト(KO)マウスを作製。野生型マウスとの間の腎移植をもちいて4種類のマウスを作製する。
1 野生型マウスに野生型マウスから腎臓を移植する (野生型)
2 KOマウスにKOマウスから腎臓を移植する(全身KO)
3 KOマウスに野生型マウスから腎臓を移植する(腎以外全身KO)
4 野生型マウスにKOマウスから腎臓を移植する(腎のみKO)
すると、血圧は
野生型 > 腎以外全身KO=腎のみKO > 全身KO
であった。
次に、アンギオテンシンⅡを1000ng/kg/minで4週間に渡り持続注入すると、当然ながら全身KOでは血圧は上昇せず野生型では上昇したが、腎以外全身KOと腎のみKOは異なる経過を示した。
どちらも最初は血圧が上昇しはじめたが、3日程度で腎のみKOは血圧が下がり始め、全身KOよりは少し高いレベルで横ばいになった。腎以外全身KOでは血圧はどんどんあがり続け、20日後には野生型と同程度の高血圧になった。
つまり血圧は、
野生型=腎以外全身KO > 腎のみKO > 全身KO
となった。
さらに心肥大の程度を調べると、
野生型 > 腎以外全身KO > 腎のみKO=全身KO
であった。つまり、心肥大の生成には心臓のAT1受容体より全身の高血圧の方が重要だということ。
文献: PNAS 103: 17985-17990, 2006
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この研究を見ると、Value研究を思い出す。
心疾患ハイリスクの高血圧患者を対象にCa拮抗薬(amlodipine)とARB(valsaltan)を勝負させたところ、Ca拮抗薬の方が血圧が良く下がり、二次エンドポイントである心筋梗塞の発症が有意に減ったというものだ。ちなみに新規糖尿病発症はARBの方が有意に少なかった。
心保護の上でも、最優先すべきはしっかりと血圧を下げることであり、臓器保護効果はその次の優先度だということだ。
また、糖尿病患者に対する最新の高血圧治療ガイドラインでは、まずRAS阻害薬を投与し、次にCa拮抗薬ないし利尿剤を投与すべしとなっている。2nd choiceのCa拮抗薬と利尿剤ではどちらを優先するかはガイドラインでは明示していない。
Valueでは、Ca拮抗薬やARBで降圧不十分な場合にはそれぞれ利尿剤(hydrochlorothiazide)を加えていた。
つまり、降圧力は
Ca拮抗薬+利尿剤 > ARB+利尿剤
である(少なくともamlodipineとvalsartanでは)。
Valueの負けパターンにはまるのは避けたいので、自分はARBに加えるのはまずCa拮抗薬にしている。
ARBが効きにくい人には利尿剤が有効という考え方もあるようだが、ならなぜValueの結果になったのか。
降圧力に関して、Ca+利尿剤>Ca+ARBという可能性はないとはいえず、ARB+利尿剤>ARB+Caも無いとはいえないが・・・。ARB+利尿剤 vs ARB+Caの試験なら、ARBメーカーがやればどちらが勝っても企業的にはOKですね。同様に、Ca+利尿剤 vs Ca+ARBはCaメーカーがやればいい。
総論ではなく、この患者にはこの組み合わせが一番良いという個別の指標があればベストだ。