新米が店先に並びはじめるこの時期、日本人にとってお米がどれほど特別な存在であったかを、あらためて感じさせられます。実った稲穂が黄金色に輝く田園風景は、秋を代表する景色のひとつともいえるでしょう。今回は、稲作の伝来から、日本最古とされる「おにぎり」の発見まで、お米にまつわる物語を訪ねてみたいと思います。
「瑞穂の国」と呼ばれた、稲作とともにある暮らし
稲作が大陸から日本へ伝わったのは、弥生時代のことだと考えられています。以来、稲作は日本人の暮らしの中心を担う存在となり、この国はやがて「豊葦原の瑞穂の国(とよあしはらのみずほのくに)」という美しい異名で呼ばれるようになりました。「瑞穂」とは、みずみずしく実った稲穂を意味する言葉です。国の呼び名そのものに稲穂が織り込まれていることからも、稲作が単なる農業の枠を超え、暮らしや文化の根幹を成していたことがうかがえます。
その年に初めて収穫された稲穂は「初穂(はつほ)」と呼ばれ、神様への感謝を込めて捧げられてきました。伊勢神宮では今も、稲の収穫に先立って抜き取った稲穂を神前に供える「抜穂祭(ぬきほさい)」という神事が執り行われていると伝えられています。実りをまず神様に捧げ、その恵みに感謝してから自分たちもいただく――そうした順序を大切にする心が、長く受け継がれてきたようです。
石川県で発見された、日本最古の「おにぎり」
※画像はイメージです
そんな稲作の歴史を物語る、興味深い発見が石川県中能登町にあります。1987年、同町の杉谷チャノバタケ遺跡にある弥生時代中期の竪穴住居跡から、三角形に固められた炭化米の塊が出土しました。今からおよそ2000年前のものと推定され、「日本最古のおにぎり」として大きな話題を呼んだそうです。
分析の結果、この塊はうるち米ではなく、もち米を蒸したのちに焼いたものだったことが分かっています。壁際から見つかったことから、日々の食事としてではなく、霊的なお供え物や厄払いのために作られ、軒先などに吊るされていたのではないかとも考えられているそうです。今の私たちが握るおにぎりとは目的が異なっていたのかもしれませんが、米を固めて携えるという発想が、すでに2000年前から存在していたことは、驚きに値します。
中能登町では、この発見にちなみ、毎月18日の「米食の日」と、旧町名「鹿西(ろくせい)」の「ろく」を結びつけた6月18日を「おにぎりの日」として制定し、今も記念のイベントを行っているそうです。地元の道の駅では、出土した炭化米塊のレプリカが展示され、訪れる人々に2000年前の物語を伝えているといわれています。
時代を経て、おにぎりは各地でそれぞれの個性を育んできました。関東では俵型や三角形が主流とされる一方、関西では俵型が好まれる傾向にあるといわれ、地域によって手に取る形も少しずつ異なっているようです。具材や味付けも土地ごとに工夫が凝らされ、シンプルな塩むすびひとつをとっても、握り方や塩加減に、各家庭の個性が表れるものです。
天日に干され、稲穂が揺れる「はさがけ」の風景
新米の季節、東北や北陸をはじめとする稲作地帯では、刈り取った稲を稲木や竿にかけて天日で乾燥させる「はさがけ(はざかけ)」と呼ばれる光景が、今も見られます。機械による乾燥が主流となった現代でも、じっくりと天日で干すことで、稲の茎に残った養分がゆっくりと実に行き渡り、米の旨みが増すと考えられているそうです。
黄金色の稲穂が並んで干される風景は、地域によって「はさ」「はざ」「稲架(いなかけ)」などさまざまな呼び名で伝えられ、秋の田園を彩る風物詩として、今も大切に受け継がれています。新潟県十日町市の棚田地帯をはじめ、山あいの美しい棚田で見られるはさがけの景観は、実りの秋ならではの風物詩として、多くの人の目を楽しませているそうです。
田を見守ってきた、案山子という存在
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実りの田んぼに欠かせない存在として、案山子(かかし)も忘れてはなりません。案山子の語源は、獣の毛や魚の頭などを焼いて串に刺し、その臭いで鳥獣を追い払っていた「臭(かがし)」にあるという説が伝えられています。やがて人の形をしたものへと姿を変えながらも、田を見守る存在として、地域ごとに親しまれる姿へと育まれていきました。
近年では、各地の農村で「かかしまつり」と呼ばれる催しも開かれるようになり、地域の人々が趣向を凝らした案山子を田んぼのあぜ道に並べ、実りの季節を祝う恒例行事として親しまれているところもあるそうです。もともとは鳥獣を追い払うための実用的な存在だった案山子が、今では地域を彩る秋の風物詩へと役割を広げてきたこともまた、興味深い変化といえるでしょう。
おわりに
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弥生時代から続く稲作の歴史、2000年の時を経て発見された炭化米の塊、田を見守ってきた案山子、そして今も各地に残る「はさがけ」の風景――実りの秋に稲穂を眺めるだけでも、これほど長く豊かな物語が広がっています。手のひらにおさまる一つのおにぎりにも、悠久の歴史と、土地ごとの個性が息づいているのです。今年の新米も、こうした物語に思いを馳せながら、味わってみてはいかがでしょうか。
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