[第36話]
もう一度頂点を狙う

2014年
1月25日

東京都新人戦(全国選抜予選)。

高輪は決勝で國學院久我山を2-0で破り、
この大会4連覇を達成。
今年もまた、全国制覇に向けて力強く動き出した。

新チームとして始動した高輪は、
2年生の阿部、北村、藤本を中心に
12月の若潮杯では強敵・育英を代表戦で下して優勝。
同じく12月の阿川杯では、拓大紅陵を退け優勝。
また、1月の神奈川県強化錬成会では仙台育英を沈めて優勝。
3月に行われた2つの関東大会、
すなわち関東近県高校選抜大会と関東私立高校選抜大会では、
並み居る強豪を下して優勝。
次々と優勝を積み重ねてきた高輪。
大将阿部を中心に、昨年度に勝るとも劣らぬいいチームができてきた。


2014年3月
第23回全国高校選抜大会が、
春日井市総合体育館にて開催された。

優勝候補筆頭は九州学院。
絶対的大将の山田凌平、そして勝負強さ抜群の持原光希、
ずば抜けた2年生の槌田祐勢。この3人がいるだけで、
いったいどうやって九学に勝つの?という感じだが、
さらに、寺田清貴、山本冬弥、米村丞史、古田智也と言った
とんでもないチームを作ってきた。
穴が全くないどころか、
補欠まで含めた全員が4番のエースという感じである。

その九学を脅かす存在が、
育英、水戸葵陵、島原、筑紫台、そして高千穂あたりか。

育英の、山田将也、山崎仁平という2枚看板、
水戸葵陵の、中根悠也、安井奎祐というツートップは、
他校にとっては脅威であり、九学にも対抗できる力を持っている。

また、島原の牧島凜太郎、筑紫台の百田尚真という頼れる大将がいるチームは
接戦になった時に力を発揮するだろう。
さらに、剣キチが高千穂三人衆と勝手に命名した、
初田彪、染矢椋太郎、岩切勇樹の強力3人組は、
後に大学でもトップレベルで活躍。
久々の古豪復活か。

もちろん、われらが高輪も立派な優勝候補である。

高輪は、その優勝候補の一角である島原と同じ予選リーグに入ってしまった。
これは予選から全力全開だ。
僅差の勝負になる可能性が高いので、一本のミスも許されない。

高輪vs島原。

高輪・先鋒の野稲がコテの一本勝ち。
しかし、すかさず島原・次鋒の大石が一本返す。
中堅が引き分けで1-1のイーブン。
副将の北村が痛恨の二本負け。
これで大将の阿部が二本勝ちで引き分けというところに追い込まれた。

そんな阿部が牧島にメンを先取!
おお、奇跡が起こるか。

いや奇跡は起こらなかった。
阿部が一本取り返された時点で勝負が決まった。

今年の全国高校選抜は、
決勝戦を九学と島原が戦ったが、
前評判通り、九州学院の圧勝に終わった。


島原は前年のIHの準決勝で、
九学相手に、歴史に残る戦いを繰り広げたが、
今思い返せば、あれが始まりだった。
あそこを起点に数年間、
島原は全国トップのチームを毎年つくりながらも、
九学という分厚い壁に優勝を阻まれ続けることになる。

また東海大相模は、
大将・棚本廉の大活躍で、
神奈川では桐蔭学園以外の初めての入賞だった。
小学生日本一に輝いた棚本だったが、
高校でも、スピード、勝負勘ともに
トップレベルの選手となっていた。
これは今年のIHが楽しみである。

2014全国選抜
優勝 九州学院
2位 島原
3位 高千穂
3位 東海大相模



魁星旗大会(秋田)

高輪は4回戦で奈良大附属と対戦。
全国選抜から3日目にまた奈良大附属だ。
選抜では高輪の負けが決まった後に対戦し2-0で下した。
さて再びの対戦は、
高輪・先鋒の清水が2人抜きで相手中堅と引き分け。
次鋒の野稲が1人抜いて相手大将の塚本大樹を引っ張り出し、
中堅の藤本が引き分け。
2人残しで勝利を収めた。
高輪、なかなかいい感じである。

5回戦の相手は筑紫台。
今年の筑紫台はいささか手ごわい。
全国選抜予選では、激戦区福岡を勝ち抜き代表となっただけあり、
優勝候補の一角である。

ここで先鋒を任されたのが、次年度のエース新名だ。
新名が飛ばす。相手の中堅まで3人抜きだ!
4人目の井戸慎太朗に敗れバトンタッチ。
しかしいい仕事をした。
ところが、この井戸に逆に3人抜きを許し、
新名の作ったアドバンテージをチャラにされた。
大将戦。阿部vs百田は、
残念ながら百田に軍配が上がった。

ああ高輪、ベスト16止まりに終わった。

2014魁星旗
優勝 九州学院
2位 育英
3位 東福岡
3位 東海大四


4月、桜の季節。

毎年多くの有望選手が入学してくる高輪高校剣道部に、
今年は新入生の姿が1人もなかった。
そう、学校の方針で、昨年度を持ってスポーツ推薦制度が廃止されたのである。
なんとも寂しい限りだ。

新2年生の野稲、新名たちは、
また今年も最下級生として、通常ならば一年生が担当していた雑用など、
昨年と同様に今年も自分たちが担当した。
まあ、これも運命だから仕方ない。


6月、関東大会。

高輪は予選リーグで拓大紅陵と常磐を破って決勝トーナメントへ。
決勝トーナメント1回戦は、水戸葵陵を破った横浜を2-0で下す。
準々決勝の相手は前橋育英。
群馬の強豪校ではあるが、選抜出場も逃しているし
高輪にとっては問題なしと甘く見ていた。
ところが、先鋒・次鋒と敗れ中堅が引き分けるという大ピンチを迎える。
副将の北村が辛うじて返して大将戦に。
しかし大将の阿部が一本勝ちで代表戦というピンチ。
阿部が必死に攻めるも、結局延長を含めて6分間戦って一本も獲れず。
チームはここで敗退することとなった。

優勝したのは安房だった。
五十嵐空、村上亘、杉山隼都、熊倉信広、長須朝也というメンバーだ。
関東は選抜3位の東海大相模か、水戸葵陵かあるいは高輪かと思っていたが、
安房も強い強い。選抜は東海大浦安(BEST8)に出場を譲ったが、
これはハッキリ言って全国上位を目指せるチームだ。

個人戦も、北村、新名の2名が出場したが、何れも序盤戦で姿を消した。
関東個人を制したのは水戸葵陵の中根で二連覇を達成した。

2014関東大会
団体
優勝 安房
2位 市立川口
3位 国士舘
3位 前橋育英

個人
優勝 中根悠也(水戸葵陵3年) 2連覇
2位 米谷亮祐(桐蔭学園3年)
3位 安井奎祐(水戸葵陵3年)
3位 伊藤謙剛(慶應義塾2年)


こんなことじゃあ全然ダメだ。
甲斐は選手にはっぱをかけた。
全国優勝を目指す高輪にとっては、この関東大会は苦い薬となり、
また一から出直す気持ちで気合いを入れなおした。


いよいよ高校剣道の夏がやってきた。

7月、玉竜旗大会。
昨年、IH個人チャンピオンの佐々木陽一朗を擁し、
玉竜旗、IH団体ともに優勝までもう一歩だった高輪。
しかし今年も負けず劣らぬ強豪チームを作ってきた。
阿部、北村の二枚看板は、
東京都のIH個人予選で決勝を戦い阿部が優勝した。
この2人に、藤本、新名、野稲、丸山らが名を連ね、
チーム一丸となって優勝目指して燃える。

高輪は2回戦から出場。
まずは先鋒の野稲が5人抜き。
3回戦は次鋒の新名が4人抜きで勝利。
4回戦の土浦湖北戦は中堅までで高輪が勝利。
5回戦は福工大城東戦、副将で勝負がついた。
6回戦は奈良大附属。
えっ? 春の全国選抜、魁星旗、玉竜旗とここまですべて奈良大附属と当たっている。
ここでも副将の北村が頑張って2人抜いて勝利。
奈良大附属としては三大会全て高輪に敗れたことになる。
7回戦は福岡第一。
ここも副将の北村が相手副将・大将を破って勝利。
今日の北村は絶好調だ。

準々決勝の相手は東福岡。
次鋒の新名が一勝を挙げたのちに引き分け。
1人リードで相手の副将、了戒一彰が出てきた。
この了戒、東松舘出身で中学は関中。
高輪の大将・阿部と同じだ。
了戒が藤本、北村と立て続けに抜いて、ついに大将の阿部が本日初登場。
しかしこの元チームメイト対決を制したのは了戒だった。

高輪はベスト8に終わった。

2014玉竜旗
優勝 九州学院
2位 島原
3位 水戸葵陵
3位 東福岡

島原は、選抜に続き決勝で九学に敗れた。


2014年インターハイは、
神奈川県の小田原アリーナで開催された。

注目されたのは九州学院。
史上初の高校4冠をかけての出場となった。

高輪は緒戦で興南に5-0勝利。
2戦目は東海大四と大将戦となるが、
阿部が2本勝ちして2-1で勝利をものにした。

この日、並行して行われた個人戦の序盤戦。
高輪から出場していた2人。
残念ながら、阿部は久御山の田畑匠悟に、
北村は育英の山田将也に緒戦で敗れた。
しかし、これで団体戦一本に集中できると、気持ちを切り替えていこう。

翌日行われた決勝トーナメント。

高輪は1回戦で八頭を4-0で破る。
チームは絶好調だ。
これで玉竜旗に続いて今季最高のベスト8が決定した。
もう一つ勝ちたいところ。

準々決勝の相手は福大大濠を破って勝ち上がってきた本庄第一。

先鋒の丸山がメンを先取するが、2本取り返され敗れる。
高輪、今大会初めてのビハインドだ。
その後、新名、藤本が引き分け。

厳しい展開をぶち破ったのが副将の北村だった。
長峰に対して鮮やかなメンを決めたかと思うと、もう一本メンを決めストレート勝ち。
大将の阿部も実力選手の田中を下し、見事な逆転勝ちを収めた。

これで3位入賞以上が確定した。
と同時に、この時点で高輪は
インターハイ3年連続準決勝進出という快挙も成し遂げた。

準決勝の相手は育英。

今日の育英は、準々決勝で島原を下して勝ち上がってきた。
なんとここまで誰も負けなしである。
特に大将の山田、副将の山崎の強さは折り紙つき。
今年の育英は歴代育英の中でもそうとう高いレベルにあることは間違いない。

さあ、高輪、正念場だ。

先鋒の丸山が敗れるも、
次鋒の新名、中堅の藤本が勝利し早くも形勢逆転。
高輪が2-1のリードで副将戦を迎えた。

先ほどの本庄第一戦で値千金の勝利を挙げた北村が、
山崎銀平にメンを取られ一本負け。
これで2-2の全くのタイとなった。

大将戦は阿部と山田将也。
山田は昨年から2年生にして育英の大将を務める実力者。
しかし、阿部も負けてはいない。
本大会の阿部は予選から四戦全勝。
しかも一本も取られていない。

ところが山田がメンを先取。
必死に取り返そうとする阿部に対して、もう一本メンを決めたのだ。

ああ、勝利の女神は微笑まず。

まあ、阿部でダメだったのだから仕方がない。
むしろインターハイ3位は本当によく頑張ったと讃えるべきだろう。

このインターハイを制したのは九州学院だった。
九州学院は史上初の高校4冠を達成した。
すなわち全国選抜、魁星旗、玉竜旗、インターハイを全て獲ってしまったのである。


3位入賞 高輪のメンバー
先鋒 丸山大輔(2年)
次鋒 新名敬介(2年)
中堅 藤本寛大(3年)
副将 北村侑士(3年)
大将 阿部凌大(3年)


2017インターハイ
【団体】
優勝 九州学院(2連覇)
2位 育英
3位 高輪
3位 東海大相模

東海大相模は地元IHで、全国選抜に続く3位入賞。
とにかく棚本の超人的な身体能力と強さが光った。

【個人】
優勝 中根悠也(水戸葵陵3年)
2位 山田凌平(九州学院3年)
3位 千田海(仙台育英3年)
3位 多賀谷歩(小山3年)

九州学院の山田は、このインターハイは団体・個人の2冠を目指したが、
奇しくも全中と同じ決勝戦となり、
水戸葵陵の中根悠也に延長戦で敗れた。
中根は、1998年の内村良一(九州学院)に続く
史上2人目の、中学・高校の個人2冠という金字塔を打ち立てた。
ちなみに史上3人目は、今年2017年の岩切勇磨(九州学院)である。

(次回に続く)
【文中敬称略】

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この記事は、出版した本の原稿に、
当時の他校の様子なども加えて再編集しています。