『三四郎』感想

 夏目漱石の『三四郎』。同じ題材でもう一度小説にしようとしてもなかなか成立し得ないような、漱石でしか描けないような世界が確かにここにはあります。



 重厚だが、それが単に重いテーマというわけでもない。

 むしろ誰もが1度は通過するような刹那的な出会い。でもそのようにして描き出される男女の関係性は、そのまま東洋的なものと西洋もしくはキリスト教的なものとの対峙という漱石的な文学的主題に高められています。

 筋書きで読み手を引っ張るような作品ではなく、むしろさまざまな状況設定から浮き彫りにされてくるような人間の魅力が浮かび上がるような作品。

 主人公の三四郎を惑わすミネコの告白する罪意識は、日本的なものではなく、西洋的な価値観との会合でしか産まれ得ないもの。そのミネコの意識と三四郎の意識の衝突こそが、この小説全体を引き上げる緊張感を作り出しています。

 また硬質な文体でありながら、人間社会の機敏が垣間見れるような文章は、漱石の力量でこそ成立するものと言えます。

 とにかくこういう小さく身近な男女の関係性が1つの巨大なテーマにつながる描写には驚き以外に覚えようがありません。1度は読むのをお勧めします。