川上美央映子さんの『夏物語』。
正月のまとまった時間に読むために、
それなりの分量のあるものを選んだけど、
子供のいる身としては「まとまった時間」などあるはずもなく、
結局いつもと変わらない隙間時間読書になりました。
でもそれでも良いと感じました。

気に入った点は以下
1)各章のタイトルが秀逸
 タイトルは内容(主題)を集約するようでいて、
それを制約せず、文体が拡散することを許容することで、
味わいが深くなっています。

2)高い倫理性
 文学とは倫理的問題を扱うものなのだという王道を歩んでいます。
展開がどうなるのだろうというワクワク感が最後まで続きました。

3)描写力の高さ
 風景描写が秀逸。
ここまでの文体で風景を描き出せる人は、プロと言えどもそうはいない。
風景描写にこそ作家の力量が現れるというのは本当だと私は思う(だがこの「風景描写」こそ多くの人が文学を忌避する原因ともなっている。文学における風景とは「心象」のことなのだ)。

4)リアルな感覚が文体に溢れている
 私小説作品である錯覚に最後まで支配されました。
「これはあくまでも虚構だ」とは頭の中で自分に言い聞かせながらも、
作者の実体験であるように感じられました(もっとも、
物書きの内面とはそういうものかもしれないが)。

気になる点
1)物語が完結するために関係性を片づけすぎ、かな
 主人公と、不妊治療で出会った男性との間の障壁であった1人の女性、
また主人公(小説家)と編集者である女性との関係性が、
1つ1つの物語の中で片付けられすぎかな・・。
実際(現実、読者の背景)はそんなに、
事は収集するものではないはず。
予定調和を感じて少し違和感を覚えました。

 ともあれ時間を割いて読むに値した本だと感じました。オススメです。