客の曰く、天下の災・国中の難、余独り嘆くのみに非ず、衆皆悲しめり。

今蘭室に入りて初めて芳詞を承るに、神聖去り辞し、災難並び起こるとは何れの経に出でたるや。

其の証拠を聞かん。

主人の曰く、其の文繁多にして其の証弘博なり。

金光明経に云はく

「其の国土に於て此の経有りと雖も未だ嘗て流布せず。捨離の心を生じて聴聞せんことを楽はず、亦供養し尊重し讃歎せず。

四部の衆、持経の人を見るも、亦復尊重し乃至供養すること能はず。

遂に我等及び余の眷属、無量の諸天をして此の甚深の妙法を聞くことを得ず、甘露の味はひに背き正法の流れを失ひて、威光及以勢力有ること無からしむ。

悪趣を増長し、人天を損減して、生死の河に堕ちて涅槃の路に乖かん。

世尊、我等四王並びに諸の眷属及び薬叉等、斯くの如き事を見て、其の国土を捨てゝ擁護の心無けん。

但我等のみ是の王を捨棄するに非ず、必ず無量の国土を守護する諸大善神有らんも皆悉く捨去せん。

既に捨離し已はりなば其の国当に種々の災禍有りて国位を喪失すべし。

一切の人衆皆善心無く、唯繋縛・殺害・瞋諍のみ有って、互ひに相讒諂して枉げて辜無きに及ばん。

疫病流行し、彗星数出で、両の日並び現じ、薄蝕恒無く、黒白の二虹不祥の相を表はし、星流れ地動き、井の内に声を発し、暴雨悪風時節に依らず、常に飢饉に遭ひて苗実成らず、多く他方の怨賊有りて国内を侵掠せば、人民諸の苦悩を受けて、土地として所楽の処有ること無けん」已上。



通釈

客人は言う。

世の中の災難を歎くのは私一人ではない。

皆が悲しんでいる。

今ご主人の立派なお話によれば、謗法が充満している為に諸天善神が去り、魔や悪鬼によって災難が起きるというが、それはどのお経に文証があるのか。

すると主人が答えるには、たくさん説かれている。

譬えば金光明経には、その国に正しい教えが有っても国王がそれを流布せず、正しい教えを聞こうともせず、供養することも尊重することもせず、またすべての信仰者も正法を供養しなければ、四天王や諸天善神は力の源である正法の法味を味わうことができずに威光・勢力を失い、国を守ることができず、そのために国王も力を失っていく。

すると、不幸な命の者が増えて、煩悩に惑わされて成仏の道を失っていく。

四天王はお釈迦様にこう言った。

我々四天王や諸天善神は、仏教を信じない国王の国を擁護する心を失ってしまう。

すると我々四天王が国王を見捨てるだけでなく、その国を守護する諸天善神も、その国を見捨ててしまう為に、その国は種々の災難に襲われ、国王は位を失ってしまうであろう。

諸天に見捨てられた国では、人は悪いことばかり考え、牢に繋がれたり、人を殺したり、争いが起こり、互いに憎んで無実の人が罪を着せられる。

伝染病が弘まり、彗星が現れ、太陽が二つ現れたり、日蝕・月蝕が不規則になり、黒白の不吉な虹などの天変が起こる。

次に地夭として地震や、井戸の中で大きな地鳴りが聞こえたり、大雨・暴風・飢饉によって作物が稔らなくなって食料の危機になり、他国が侵掠してくる。

そのために人々は苦悩し、楽しく暮らすことができないという。