主人の曰く、独り此の事を愁ひて胸臆に憤悱す。

客来たりて共に嘆く、屡談話を致さん。

夫出家して道に入る者は法に依って仏を期するなり。

而るに今神術も協はず、仏威も験無し。

具に当世の体を覿るに、愚かにして後生の疑ひを発こす。

然れば則ち円覆を仰いで恨みを呑み、方載に俯して慮りを深くす。

倩微管を傾け聊経文を披きたるに、世皆正に背き人悉く悪に帰す。

故に善神国を捨てゝ相去り、聖人所を辞して還らず。

是を以て魔来たり鬼来たり、災起こり難起こる。

言はずんばあるべからず。

恐れずんばあるべからず。



通釈

すると主人は、「私もこの悲惨な状況を嘆き悲しんでいた。共にゆっくり語り合おう」と話し始めた。

出家して仏道に入る人は、仏の教えを学んで成仏する。

ところが世の中を見れば、神の力もなくなり、仏の威光も失われている。

よくよく世の中を観察すると、果たして死んだ後に成仏ができるのかと疑いを持ってしまう。

そのくらい現実は悲惨である。

そこで天を仰いでは恨みの心を呑み込み、地面に向かって俯いては深く物事を考えている。

よくよくその原因を求めて人の言葉に耳を傾け、お経文を調べて熟考するに、世の中の多くの人々が皆正法の教えに背き、邪義謗法を信じて重い罪障を作っている。

そのために諸天善神は正法の法味を得て威光勢力を増すことができず、法味に飢えて守護の国土を捨てて天上界の本地に戻ってしまい、修行者もまた去ってしまった。

つまり、国を守る諸天も聖人も悉くいなくなってしまった。

そのために、諸天善神が去って空き家となった神社仏閣には悪鬼・魔神が住みつき、種々の災難を招き寄せている。

このことを言わずにはいられない。

恐れずにはいられない。