我が子が前妻の胎内に宿ったと知った時の思い出を綴りたい。


前の結婚は入籍して前妻が私の実家に嫁入りする形での結婚だった。


同居を初めて4ヶ月目。私は倫理法人会の研修で東京を訪れていた。

研修がつつがなく終わり、蒲田の駅へ向かう途中だった。

前妻からたった一通のメールが届いた。


「妊娠検査薬を使った。陽性だった。」

前妻らしいぶっきらぼうな書き方で、重要なことが書いてあった。


妊娠検査薬で結果が出るのは、受胎してから3ヶ月ほど経った頃だろう。

ということは同居を始めた月に妊娠をしたことになる。


私は瞬時に感情がオーバーフローしていた。

もともと前妻とは「子供ができなくていい。」と話していた。

「子供ができなかったとしても、なんの検査もしないし、治療にもかからないつもりだ。どちらに責任があるかなんて、考えたくもない。」と言っていたのに。

まさかこんなに早い段階で妊娠が発覚するなんて。


気づけば私の頬を涙が伝っていた。

それだけでは収まりきらず、私は泣いた。

テレビでは少し涙が流れるだけで「号泣」などと大袈裟に表現するが、私のそれはまさに号泣だった。


蒲田駅前という多くの人が行き交うその場所で、私は腰が砕けてへたり込んで泣いた。

感情を隠しきれずにわんわんと声をあげ、40手前のスーツ姿の男が泣いている。


周りから見れば奇怪に見えただろう。

私はこれから親になる。

親になることが許された。

その事実だけが頭の中を全部占拠していた。


ひとしきり泣いた後に、新幹線で可能な限り早く帰ると前妻のお腹をみた。

前妻は「子供なんて産みたくない」と一言告げた。