私が父に対して抱く印象は「バランス感覚の優れた人」だ。

私が産まれる前に他界した祖父は材木屋の息子で、他の人には真似を出来ない、神がかった精度の材木を切り出す人だったらしい。

 

だが祖父はアルコール依存症で、重度の神経痛持ちだったそうだ。

そのために、それだけの技術を持ちながら、あまり働かなかったと父から聞いた。

 

私も父も機械いじりや新しい技術が好きで、ものづくりや技術職の素養があった。

50年も前に他界した祖父の血が私達に脈々と流れていることを感じる。

 

父は高校卒業後に、件の土木資材販売会社に入社。

しばらくは発電機のエンジン修理などの業務をこなしていたらしい。

父は技術職には珍しい、物腰の柔らかい親しみやすい性格で、いつしか営業職に転じた。

 

父の強みは手書きの図面だった。

現場を見てメジャーで測った後に、手書きで図面を書くのが早かった。

私も父の図面を見たことがあるが、縮尺もいい加減で雑に書いてあるようなのに、それでいてわかりやすい不思議な絵だった。

 

昭和初期の当時は、CADどころかパソコンもない時代。

その絵とともに、必要な資材の数を列記された見積もりを渡したら、顧客への訴求力は絶大だったはずだ。

 

余談だが、私も技術職に就いているが、どれほど努力しても、言葉や数字では現場がよくわからない。

空間認知を言葉や数字につなげる能力が弱いのか、一度自分で手書きで絵に起こさないと、頭がぼんやりして理解が出来ない。

もしかしたら父が手書きで図面を書き始めたのは、はじめは顧客のためではなくて、自分の理解のためだったのかもしれないと今は感じる。

 

才能の不足を努力で補えば、「誰にでもわかる」を生む。