仕事には報酬がつきものである。

報酬がなければどのような人も働くことはできない。

 

それは賢者も例外ではない。

では賢者の業務である楽園創造の報酬とは何であろうか。

もちろんそれは金銭ではない。

 

ある賢者が楽園の創造を計画した。

多くの賢者候補の計画はとん挫し、水泡に帰す。

その賢者も一つの楽園計画が失敗に終わった。

その楽園計画に期待していた人々は去っていった。

計画の失敗は今回が初めてではない。

すでに何度も人々から見放され、幾度も罵声を浴びせられてきた。

だがその賢者は再び楽園計画を企てている。

 

多くの人に笑われ馬鹿にされ、何度も失敗して己の未熟さを思い知り、自分は無力だと嘆く。

それでも楽園計画は止められない。

 

このエネルギーはどこから来るのか。

それは与えられる報酬からである。

 

この世界には「何一つ願いがかなわない世界」なら存在するが、「完全無欠な幸福世界」は存在しない。

これは確固たる事実である。

だが何か欠けていたとしても、「総合幸福値」を最大に近づけることはできる。

「何一つ願いがかなわない世界」を突破する方法は必ずそこに存在する。

 

楽園を創造し、その創造者として新しい世界を見たい。

人々が笑いあい、幸福に日々を過ごす世界が見たい。

「何一つ願いがかなわない世界」がまるで存在しないかのような世界を作りたい。

 

かつての私は自分の人生がうまくいかなくて、嗚咽し歯ぎしりしてこの「何一つ願いがかなわない世界」を憎んだ。

この世界を突破しようと決めて、力を求めた。

 

今は世界への憎しみは消えて、喜びしかない。

理想郷の創造など、常人にできることではない。

この仕事ができることそのものが大きな喜びである。

己が創った理想どおりの美しい世界を見て、喜びの涙に濡れて死ぬ。

これが真の賢者の道である。

 

死ぬときにあの世に金は持っていけないが、喜びは持っていける。

業務である楽園の創造そのものが、賢者にとっての報酬である。