(A)20111031elucidation | 講師対談 〜僕らの学問〜

講師対談 〜僕らの学問〜

当ブログはTwitter上での国語講師城福博之と英語講師天藤崇のバトルのまとめや補足を行う場所です。内容に関するご感想はご批判を含め大歓迎ですが、真面目に議論をする気のない方やひやかし目的での書き込みはご遠慮ください。

[Hiroyuki Jofuku 2011.10.31]

優の詞もことによりて斟酌すべきにや、まされるがほめけるをだに辛くとがめけり。況んや、劣れらむ身にて褒美、なかなかかたはらいたかるべし。かやうのことはよく至りたる人のすべきとぞ。

You must be alert in giving praise to someone, for hearsay has it that a man, eliciting heartfelt praise from one of his superiors, repaid it with bitter reproaches. A superior blamed for the praise he gives, an inferior who heaps clumsy praises is rightly labeled as a fellow embarrassing to be with. Praise must be a master's deed.
(人をほめる際には十分注意しなければならない。というのも、聞くところによると、ある人が彼より能力の上で勝る人の心からの賛辞を受けておきながら、その賛辞に辛辣な非難をもって報いたことがあるくらいだからだ。優れた人でさえ賛辞を非難されるのだから、劣った人間が下手な賛辞を並べ立てるなら、当然のことながら「傍にいて気恥ずかしい」奴とのレッテルを貼られてしまう。賞賛とは匠の域に達した人の行いでなければならないのである。)


僕は古典が大好きです。日本語の美しさを最も感じられるのは古語の世界だと思っています。古典なんかなんの役に立つか分からんみたいなことを言っている人(評論家等も含めて)がいますが、全く意味が分からん。言語センスを教えてくれる最良の教師は古文だといっても過言ではないと思います。例えば、今回の文中の「まされるがほめけるを」の部分。こういうあたりが僕は好きなんですよね。直接的には「優れている人が褒めたのを」なんでしょうが、後続文脈との絡みで、「せっかく優れた人が褒めてくれたのに」みたいな感じ、言い換えるなら「穿った見方して臍曲げんでもいいのに」みたいなニュアンスがこっそり忍ばせてある。こういう「味」ね。そして、英語にもこういった「余韻」を含める表現はちゃんとあるんですよね。それが「分詞構文」です。僕は、常々分詞構文の必要性について語っています。というのも、高校などの英語の授業では分詞構文が市民権を得ていないところがある。それどころか「因果性が薄まるから使ってはいけない」のようなまことしやかなスローガンのもと、英文法から抹殺されているところがあるからです。誤解を恐れずに言うなれば、分詞構文不要説を唱えている人は、言語センスが乏しいんだろうと思います。深みとか奥行きとかそういったものをそぎ落とした平板的なものの見方しかできないんだろうなと。これからの未来を創っていく若い人たちには、こういう部分を軽視してほしくないと思います。それから、「なかなかかたはらいたかるべし」の部分。この助動詞「べし」は、英語の文修飾副詞の感じと同じなんですよね。僕の英文の中ではrightlyと表現しています。助動詞と副詞の相関性に関しては僕の英文を見ていただければ随所で感じ取れると思います。そういう人間の精神性に切り込めるはずの副詞がこれまた可哀想に受験英語ではかなり日のあたらない場所に追いやられてしまっている感があります。「修飾語はあってもなくても同じなのでカット」という説明を心地よく聞けるようになってしまっている人は要注意ですよ。ちなみに、「かたはらいたし」は城福先生が解説に書いてくれているとおり、「傍にいてきまりが悪い」の古語的意味で訳出しています。a fellow embarrassing to be withでembarrassing以下はfellowにかかる後置修飾ですね。to be withの部分は不定詞副詞用法の限定でhard to get along withなどと同じ形です。現代語の「片腹痛し」ならばlaughableとかabsurdなどを使ってもっと単純な文構造で書けるのでしょうが、ここはあくまで古文の世界観に寄せています。ここで、話をさっきの副詞のところに戻しますが、序盤の「とがめけり」の「けり」も同じく、助動詞と副詞の相関です。「けり」は間接的な経験、「聞くところによると」に近いニュアンスなので、やはり文修飾副詞的にhearsay has it thatとしています。(I think thatやit is natural thatやthe trouble is thatのように、名詞節のthat節を使う直前の部分は、多くの場合「前提」を表す文修飾副詞の一種として考えることができます。)このA has it thatはrumorやlegendなどを主語にとって、「…の伝えるところによると」というフレーズでよく使われます。hearsayという名詞とともに是非チェックしておいてください。

>城福先生
勝手に古文のことを色々書いたけど、変なこと言ってないよね?間違ってるところがあれば訂正ヨロシク。


※追記
A superior having his praise blamedという部分が分かりにくいというご指摘を受けましたので、A superior blamed for the praise he givesに改訂しました。ご指摘ありがとうございました。