
主人公の田口正夫やロザーナたちが信仰しているイスラム教は、
世界三大宗教1つに数えられていて、全世界で3億人以上の人たちが信仰しています。
ユダヤ教やキリスト教よりも新しく、最もエネルギッシュな宗教――。
それが、様々な誤解を生んで来ました。
ただもしも厳密に、より正確にイスラム教徒たちのことを書いたら、
正夫とロザーナが結婚することも、ロザーナが水売りをすることも、
ありえないことになってしまいます。
舞台がイスラエルではなくて、イランやサウジ・アラビアだったら、
絶対に起こりえない物語です。
それと、あと50年いや10年でも前の時代設定だったとしてもありえない、
書くことすらも汚らわしくて、命の保障はない…。
そんなデリケートな場所が、舞台だったのです。
イスラエルを、まだ一つの国として認めていない国が沢山あって、
小さな争いや一般の人を巻き込んだテロが絶えないところ。
それでも、日本よりもうんとうんと前から、存在していた大地でもあります。
ぼくたちの生命は永遠に続くけれど、宗教は永遠ではないと思います。
いつの日か宗教は行き詰まり、どうにもならなくなる時が来る。
現実に今、そうなりつつあります。
ちゃんと泳げる人に浮き輪は必要ないように、宗教を必要としなくなる日が必ず来ます。
つまり宗教とは、”浮き輪”みたいな存在に過ぎないのです。
もしかしたら学校や会社も、浮き輪なのかも知れませんね。
この物語に、続きはもうありません。後は主人公たちが、
それなりにやって行ってくれるはずだから。
ぼくは心置きなく、次の物語に行きます。
アビアや一-はじめ-たちが待っている月へ。
心は半分くらい、進んでいます。
でもまだ残り半分くらいは、エルサレムのごちゃごちゃした路地を、
さまよっているようです。
かつて、正夫が入り込んでしまった迷路のような路地に。
もう少し、このごちゃごちゃした思いを楽しんで、
すっと抜け出たらぼくの心は、月に向かって旅立ちます。
その時、新しい物語は始まります。
その日まで(案外すぐだったりして)、とにかくお楽しみに。
最後まで読んで下さって、本当にどうもありがとうございました。
それでは、今度は月でお会いしましょう。
1999.3.10
追伸、絵は友人のやのさんが、描いたものです。
さらに追伸です、明日からは別の新たな物語を載せますね。
お楽しみに!