
「嬉しいわ、正夫。始めて言ってくれたのね。
わたしも、正夫のことが好きよ。あの時からずうーっと」
「あの時って」
「始めて、あなたに出会った時からよ。木陰でうずくまっていたあなたを見かけた時、
わたしピンと来たの。この人が、わたしがずっと待ち続けて、
探し続けていた人なんだわって、ね」
「ぼくも君を見かけた時、そうロザーナから一杯の水を貰って、
ふっと君の顔を見つめていた時に、ぼくは君と出会うために、
ここへ来たんだと思ったんだ。
ちょっとキザな言い方かも知れないけど」
髪の毛をかき上げながら、正夫は小さく微笑んだ。
「わたし、子供の頃から思っていたの。わたしのことを、
本当に心から好きになってくれる人はどこか遠くにいて、
わたしが大人になったら必ずわたしに会いに来てくれるって。だから」
「それが、ぼくなのかな」
「そうよ、そうに決まってるじゃない。ねえ今日は仕事なんか止めて、
ドライブでもしない」
「でも車は」
「あのトラックでよ、正夫。この砂漠の向こうに、海があるの。
ねえ、海へ行きましょう」
「いいのかい、本当に」
「大丈夫よ。水売りの方は、マディラに変わってもらうわ。ねえ、行きましょう。
いえ連れてって、海へ」
「まいったな」
見つめ合う2つのまなざしの彼方に、ゆらゆらと揺らめく海が広がっている。
この海の向こうから
この海の向こうから
ぼくは来たんだよ
波に揺られながら
風にもまれながら
この海の彼方から
ぼくはやって来たんだよ
子供の頃
ぼくは見ていたんだ
海にけむる思いを
海からやって来る思いを
ぼくはいつも一人で
見つめていたんだ
水平線の上に
ぽっかりと浮かんだ一つのひかり
それが
あなたのまなざしだと気付くまでに
時間はかかってしまったけど
それは一瞬のこと
それはぼくたちが見ていた
夢のようなしがらみの時空-とき-
あなたの長い髪が
ふわりと波立つ時
ほくは海に
揺らめく思いを投げた…
この海の向こうから
ぼくは来たんだよ
この海の彼方から
ぼくはやって来たんだよ
この海の
向こうから…
水を売る商人 ―22― に続きます。絵は友人のやのさんが、描いたものです。