自作について ―20代後半の詩― ・その382 | 出会える日のために・2 けんちゃんのブログ

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   春なのに

 春なのに
 冷たい風が吹く
 春なのに
 散って行く
 夢

 言葉にすると
 消えてしまう
 春なのに

 あなたは
 あの日へ行ったまま
 春なのに

 一人きりで
 空に消えて行く




桜の花が咲いて、心浮き立つような春の光景が、どこまでも広がっているのに、
なぜか冷たい風が吹いている。
決して珍しいことではなくて、桜の花が咲く頃には、
よく見られる光景でもあります。
春なのに、青年は一人物思いにふけっているようです。
あなたと呼ぶその方のことを思いながら、この詩を書いていました。
平成4年・1992年の4月に、書かれた詩です。

青年が思っていたのは、おそらくあの年上の女性であったと思います。
同じ同人誌に入っていて、青年と同じように詩を書いている女性。
手紙のやり取りもしていて、何度か会ったこともある女性。
寒く厳しい冬が、ようやく去ろうとしている時期に、
青年はあの女性のことを、思い出していました。
心の中には、女性の姿や声と言ったものが、いっぱいに広がっていたはずです。
27歳だった青年にとって、その女性の存在は一つの目標でもあり、
密かな憧れでもありました。
そこには、ほのかな恋心もあったはずです。

その思いは儚く、そしてデリケートなものでありました。
自分の母親の年齢に近いような、そんな年上の女性に心を寄せても、
届くはずはないと分かってはいても、止められない思いと言うのは、
青年の心の中にありました。
おそらくこの詩を書いていた頃に、女性から手紙が届いたのだと思います。
恋人同士が交わすラブレター、今ではラブメールとでも言うのでしょうか、
そんな甘くて熱い言葉が交わされることは、決してなかったのですけど、
詩のことや身近なことを、手紙で書き合っていました。

ここにあなたがいたら、隣にあなたが立っていたら。
詩の書かれたノートには、詩の他に色んなことが書かれていまして、
それによって色んなことを、思い出したりもします。
そして、誰かに詩を贈ったりしますと、ノートに書かれてある詩の題の下に、
小さく丸印が書かれるように、やがてなります。
この詩には、そのような印は書かれていないので、
女性に贈られたことはなかったようです。

あの日のことに思いを馳せながら、青年はこの日も一人きりで、
空を見上げていました。
あの日の光景が、空へと消え行くまで。






こんばんは。
こちらの詩とコメントは、今から14年ほど前に、
以前更新をしていた、自分の別のブログに載せたものです。

いつも読んで下さいまして、ありがとうございます。