2019年のアメリカ映画「ジョーカー」です。
監督はトッド・フィリップス。
主演はホアキン・フェニックス。
他にロバート・デ・ニーロなどが出演しています。

「バットマン」の最大の敵であり、アメコミ史上最もバイオレンスで最も有名な悪役、悪のカリスマ、それが「ジョーカー」です。
今作はそのジョーカーがジョーカーとなるまでの話。
ジョーカーの前日譚になるんですが、確か原作では前日譚どころか本名や正体は一切明かされてなかったように思います。
なので映画によってジョーカーの本名は違ったりします。
今作ではジョーカーの名前は「アーサー・フリック」です。
ちなみにティム・バートンの「バットマン」ではジョーカーの名前はジャックだったと思います。

アーサーは母とふたり暮らし。
母は介護が必要な状態でアーサーは母を介護しながらの生活。
仕事はピエロ。
といっても華麗な舞台でお客さんを楽しませるようなピエロではなく、街頭で看板を持って店の宣伝をするピエロ。
少年からバカにされ、殴られ、蹴られ、看板を奪われ、上司から怒られる。
家に帰ると母の介護をして、1日を終える。

アーサーにとって日常は「悲劇」。
良いことなんか何もない毎日。
ただただ心を無にして生きるだけ。

しかし、心を無にして笑うピエロを演じるアーサーは少しずつ狂気に目覚めていくのでした・・・。

という感じで始まるんですが、マーティン・スコセッシ監督の1976年の映画「タクシードライバー」を彷彿とさせます。
そして「タクシードライバー」で主演したロバート・デ・ニーロが今作にも登場しています。

困難な日常に次第に狂っていくジョーカーは電車の車内で3人の男を射殺します。
ピエロの格好をした男が3人を射殺した事件はニュースとなるのですが、射殺した3人がトーマス・ウェインという大企業の社員でエリートであったことから一部の低所得者たちから殺人鬼ピエロは支持を得ることに。

このトーマス・ウェインというのは後のバットマンとなるブルース・ウェインの父親です。
ブルースも子供としてこの映画に登場します。
そして、アーサーと少しだけ会っているんです。
つまり、バットマンとジョーカーはこの時会っていたという衝撃的なシーンです。

映画のラストでジョーカーの狂気が街中に伝染しゴッサムシティに暴動が起きるのですが、この時にブルースの両親が殺されるシーンがあります。
バットマンでは有名なシーンですね。
原作ではオペラを親子3人で観たあとの帰り道、路地裏で名もなき悪党に両親を目の前で殺されたブルースが「悪」に対するトラウマを抱え、後にバットマンとなりゴッサムの悪と戦うことになるという有名なシーンです。
この映画ではブルースの両親殺害すらも実はジョーカーが引き金になっていたということになっています。
つまり、バットマンが誕生したのすらもジョーカーの狂気によるものだったということです。

さて、狂っていくアーサーは何が「現実」で何が「妄想」なのかも区別がつかなくなっていきます。
ただ、鬱屈した毎日から少し解き放たれたかのような表情。
もう、自分の人生は「悲劇」ではない、これは「喜劇」なんだと確信するのです。

そして、アーサーはロバート・デ・ニーロ演じるTV司会者の人気コメディ番組にジョーカーと名乗り出演し、自分こそが3人を殺したピエロであることを明かし、そこで司会者を生放送中に殺害。
これによって街中がジョーカーのカリスマ的狂気にあてられ、アーサーと同じように毎日鬱憤を抱えて過ごしてきた人たちの心に悪の火がともるのです。

警察に捕まったジョーカーは護送されていくパトカーの中から街中で暴れ狂う人たちを見ています。
そこに車が衝突し、護送中のパトカーは大破。
ピエロのマスクをした男達がパトカーの中のジョーカーを見つけ、パトカーから救い出し、パトカーのボンネットへ寝かせます。

死んでしまったのかジョーカーはピクリとも動かないのですが、そこに集まってきた無数のピエロの集団の目の前でジョーカーは「復活」をはたすのです。

立ち上がるジョーカーに喚起するピエロの集団。
蘇ったジョーカーはまるでイエス・キリスト。
「死からの復活」こそが神の証。

ジョーカーは、悪のカリスマになった。

というストーリーでした。
全編ネタバレで書こうと思ったので、映画の公開から2ヵ月ほど遅らせて記事をアップしています。
実際は映画公開時に映画館に行って観ました。
真っ暗な映画館でただただ2時間、ひとりの男がジョーカーになっていく姿を見せられホラー映画より恐く感じました。
この映画は2時間、ひたすらアーサーが出ずっぱりです。
ホアキン・フェニックスの一人舞台といっても過言じゃないほどひたすらホアキンが映し出されています。
ホアキンの演技は、もう見事としか言いようのない演技でした。
感情をおさえ、狂気を吐き出し、ジョーカーになりきり、もはやジョーカーでしかなくなったホアキン・フェニックスは本当に神のように感じました。
こうやってジョーカーは悪のカリスマになったという様に納得しない人はいないでしょう。

「ジョーカー」は特別な悪役。
1989年のティム・バートン監督の「バットマン」でジョーカー役はジャック・ニコルソンが演じました。
コミカルで不気味な男に少年だった自分は衝撃を受け、以後やっぱりジョーカーといえばジャック・ニコルソンの顔を思い出してしまいます。

次にジョーカーが登場するのは2008年のクリストファー・ノーランの「ダークナイト」です。
演じたのはヒース・レジャーです。
惜しくもヒースはこの「ダークナイト」が公開される直前に28歳の若さでこの世を去りました。
ジャック・ニコルソンの演じたジョーカーよりもっと冷徹で何を考えているのか分からないサイコパスの犯罪者がこのダークナイトのジョーカーです。
鬼気迫るヒースの演技はアカデミー賞でも絶賛され助演男優賞を受賞。
亡くなった人が受賞するのは珍しいことでした。

そして次のジョーカーは2016年、「スーサイド・スクワッド」に登場するジャレット・レト演じるジョーカーです。
今までのジョーカーと違い、若くイケメンで、「不気味」というより「かっこよさ」のあるジョーカーでした。
ジャレット・レトがジョーカーってイメージ湧かなかったのですが、映画を観ると納得。
「スーサイド・スクワッド」の世界観にぴったりの女子が「ポッ」となっちゃうジョーカーでした。

そして、2019年の今作「ジョーカー」でホアキン・フェニックスが演じたジョーカーの登場です。
あまり見ることのないジョーカーが悩み苦しむ姿が描かれていて、シリアス度でいえば過去最強にシリアスジョーカーでしょう。
ジョーカーという悪役がいかに特別な存在なのかそれを理解した上で狂気の演技を見せたホアキン。
ある意味ピエロというものにトラウマをもってしまいそうな演技でした。

今作は本当に素晴らしい映画でして、映画が終わりエンドロールで立ち上がってスタンディングオベーションしたい気分でした。
でもここは日本、映画が終わるとみんな「ふーん」て感じで映画館を去っていきます。
でもきっとあの「ふーん」とした人達も心の中では何かがザワついてたはずです。
「とんでもない映画を観た」と思いながらジョーカーに何かしらの思いを抱き、何かしらの影響を受け、何かしらとんでもないものを植え付けられて映画館をあとにしたはずです。

最近は昔ほど映画を観る本数は減ってますが、間違いなく2019年に観た映画の中でベストな1本でした。
自分の中ではアカデミー賞、いや、ケンゴミー賞の各賞を総なめにした映画だといっても過言ではありません。

ちなみに、バットマン好きの自分はこっそりトレーナーの下にバットマンのTシャツを着て映画を観に行ってたことは内緒です。

オススメ度 84%