俺は宮古島で「駐車場難民」生活を送ることになった。

 

 

◆背景

 俺は「社宅の近くには駐車場があるもんだ」と勝手に思い込み、引越をする前に宮古島へ事前調査に行かなかった。

 事前情報によると、島内ではガソリンが高く「レギュラーが200円/1L近い」と聞いていたので、

燃費の悪い愛車BMW330Ci(直列6気筒、3.0L、ハイオク、市街地での燃費は6km/1L程度)は処分して、軽自動車に乗り換えようかとも考えた。

 

 

どうせ高速道路もないので、3Lの車は必要ないし・・・。

しかし、今年18歳になり走行9万kmを超えている愛車は、買い手が見つからない場合最悪「廃車」となってしまうので、それはしのびないから愛車が20歳過ぎるまで俺が「乗り潰す」事にした。

 

 

◆超過密住宅街

 3月14日に平良港にて愛車を受け取り、伊良部島佐良浜地区の「オーシャンビュー」の社宅

 

 

を初視察に行ったら、周囲には「定常的に駐車場の空きが無い」事が判明した。

現地代理人Yさんや、社宅オーナーのNさんが「車がおける程度の庭のある周辺民家」を色々と当たってくれたが、既に自宅用の軽自動車でふさがっているか、或いは、たまに空いていても

「那覇で就業している息子夫婦が孫を連れて年に数回帰ってくる時にレンタカーを停める場所がないと息子が困るだろうから、誰にも貸さない!」という風に、全てNGだった。

 

翌日、近所の駐車場オーナーAさん宅に「京都から持参した菓子折り」を持って挨拶に行ってみたが、「今は満車で、次に待っている車が3組ある」との事でNGだった。

 

 

もう1軒の駐車場オーナーB社事務所にも「京都から持参した菓子折り」を持って挨拶に行ってみたが、「今は産休を取っている社員が戻ってきたら使う場所なので」との事でNGだった。

 

根本的な原因は、ここ佐良浜地区は眼下の佐良浜漁港がカツオ漁で栄えた1960年代に急激に人口が増加した為、丘から漁港までの急傾斜の坂張り付くように住宅が増設された。しかし、台風対策でどれも「平屋コンクリート造り」の為、充分な容積が確保できず、隣家と密接した状態だ。

 

勿論、建設当時は1家に1台車を持つ」事は想定されていない時代なので、駐車場のスペースなど存在していなかった。

そして現在は、駐車場の無い状態でも島民の方々は殆どが「軽自動車」を利用しておられる。軽は、

・車庫証明を取る必要がない。

・自宅周辺の車道に路上駐車しても警察が取り締まる事は無いので、大丈夫。

 

 

な状態なので、この状況に特に困っている人はいないようだ。軽は偉大だ!

 

 

◆臨時対策

 仕方ないので、駐車場が見つかる迄Yさん(60代後半、伊良部島出身、マンゴー農園社長、親分肌、頑固)の作業場にBMWを仮置きさせてもらう事にした。ちょうど社宅オーナーのNさん(Yさんの同級生、超アバウト、酒大好き)も遊びにきていた。

 

Nさん 「えー、これはドイツの車かいー。しかもオープンカーで!!」

俺 「はい、京都で乗っていたのを持ってきました」

Yさん 「俺は外車は好きじゃないさぁー」

俺 「そうなんですか。ドイツの車は日本車と同じように壊れなくていいですよ。ハハ」

Nさん 「どんないい新車でも、どうせ潮風にやられて10年でダメになるさぁ」

俺 「そうなんですか。じゃあこの車もあと10年乗れたら廃車ですね。ハハ」

Yさん 「あんたはスクーターで通勤するんだろ!

  ハイオクガソリン代も高いし、どうせ乗らなくなるんだから、売ってしまえ!」

Nさん 「オープンカーなら、レンタカー屋が欲しがるから、リースして稼げばいいさぁー。

 

 

俺 「いやー、それは・・・」

Nさん 「儲かったら、みんなで飲みに行けるなー。ハハハ」

俺 「そこかっ!」

この後約2週間俺の愛車はサトウキビ畑の真ん中にあるYさんの作業所に放置して、

 

 

社宅から作業まではスクーターで往復していた。

 

ネットで調べたら、

「住所変更日から車庫証明の申請は14日以内で、これを怠ると10万円以下の罰金を科せられる場合がある」そうだ。

俺は免許証の住所を15日に実施したので、車庫証明の申請期限は29日だ!!

 

 

◆不動産仲介に相談

 3月17日、社宅の近くにあるH不動産の前を通りかかり、もしかしたらここならば「駐車場の空き情報」や「空き家オーナーの情報」を持っているかもと考え相談に行ってみた。

H社長の話では、

「現在は代替わりで空き家が多く、坂の途中の家は車が入れないのでダメだが、

 

丘の上の家ならば取り壊した跡地を『3~4台分の駐車場』にして貸し出している島民も4, 5か所はある。

 

 

しかし駐車場料金は3000円/月と相場が決まっているので、4台分程度を貸し出してもあまりみいりが多くないので、空き家は積極的に駐車場に活用されてはいない」そうで、あまり気乗りはしていないようだ。

俺が自己紹介したら、H社長は「俺が上海や京都市で旅行や不動産関係の仕事に関わっていた」部分に強く興味を持ってくれたようで、心当たりを探してみてくれる事になった。

 

 3月24日、H不動産に状況を聞きにいったが、NGだった。

H社長 「1軒車庫証明のとれる可能性のある場所があるんですが、オーナーが那覇に移住してしまって連絡がとれない」

俺 「なるほど、皆さん裕福になると那覇に行くんですね??」

H社長 「逆です。祖父の代に伊良部島佐良浜で家を建てても、息子の代では地元でよい仕事がなくて、仕方なしに那覇に行くんですよ。

何十年か頑張ってようやくあっちで定住できたので、息子の代ではもう伊良部島の方の家は放置ですね。ハハ」

俺 「なるほど、那覇ですか・・・。難しいですよね」

H社長 「でも、明日、僕は別件で那覇に行くので、その時のオーナーとコンタクトしてみますよ」

俺 「おおー、那覇に行くんですかー!! 素晴らしい!

  是非お願いします」

なんだか最後の希望が見えて来た。

 

3月26日、H社長に電話をしてアポを取ろうとしたら、やんわり断られた。

俺 「今日の午後はオフィスにおられますか?」

H社長 「居ますが、別件で時間が取れなくて・・・」

俺 「そうですか。

  先日言われていた『那覇在住のオーナー』とはいかがでしたか?」

H社長 「いやー、それがまだ返事が来なくてですねー・・・」 かなり困っているようだった。

俺 「そうですか。じゃあ、もう那覇の件は結構です。

  これ以上H社長にご迷惑をかけるのも申し訳ないので」

H社長 「あと2日位時間をかければ、もしかしたら・・・」

俺 「いやー。車庫証明の申請期限があと2日なので。

  色々とありがとうございました」

H社長 「力になれず、すみません」

俺 「時間があったら、金曜か土曜に飲みに誘って下さいね。宜しくお願いします」

(翌週このH社長とは近くのイタ飯屋に飲みに行った。勿論割り勘で(笑)

 

 

◆最後の手段

 不動産仲介会社では駐車場が見つからなかったので、最後の手段はYさんの友人Sさんに教えてもらった「車の所有者をYさんの会社名義に変更し、Yさんの作業所で車庫証明を取る」方法になる。

これだと、当分の間車はYさんの作業所に置きっぱなしになる。そして「車が必要な時には、社宅からスクーターで10分間移動して作業所に行き、車を使用した後はスクーターに乗り換えて社宅に戻る」事になり、とても不便だが、他に選択肢が無いので仕方ない。

 

そして、この方法だと事前に予約して確保できた車のナンバー「沖縄 39」が、所有者変更の為に無効になってしまう。とほほだぜ。

 

 

◆奇跡の大逆転

 27日、昼食後に社宅に戻り、引っ越し後の荷物整理をした。作業所に戻る時に通りかかった「Aコープの周辺に10台以上の駐車スペース」が空いている事に気づいた。念の為にAコープの隣にあるM畳店に聞いてみた。

俺 「近くに引っ越してきたんですが。隣の駐車場を貸してもらえませんか?」

M社長 「いやー、あの駐車場はうちの土地ではなくて、他の人から借りているものだからダメだねー」

俺 「そうなんですか。残念ですが・・・。失礼しました。とほほ」

M社長 「でも向こうの「駐車場なら空いているみたいだよ」

俺 「えっ、空いている!! どこですかそれは」 ぐっとM社長に詰め寄った。

M社長 「ほら、道の反対側の『新しい更地』に軽トラが1台停まっているだろ。あの隣に2台分空いているさー」

俺 「おおー! 確かに2台分空いてますね!

  オーナーさんはどこの人ですか、教えて下さい!」 更にM社長に詰め寄った。

M社長 「この先に理髪店Gがあるさぁー。そこの人が持ち主だー」

俺 「理髪店Gですね。ありがとうございます! 今から行ってみます。

  本当にありがとうございました」 

深々とお辞儀してM畳店を出た俺は、すぐにスクーターで理髪店Gを目指して走り出した。

 

2分で理髪店Gに到着し、中に入ってみた。

俺 「すみませーん」

Tオーナー 「いらっしゃいませ」

俺 「私は京都から引っ越してきました。Aコープの前の駐車場をお借りしたいんですが」

Tオーナー 「(なんだ客じゃないのか) ふーん。

  あの場所は貸したくないんだよねー。

  京都からきて何してるのー?」

俺 「マンゴー農園をお手伝いしています。Yさんの所です」

Tオーナー 「あー、マンゴー農園ね。Yさんの・・・」

俺 「はい。ぜひ、駐車場をお借りしたいんですが」

Tオーナー 「あそこは、将来使う予定があってね。だから、その時にはすぐに出てもらいたいんだよねー。

  契約書とかもないしね」

俺 「はい、大丈夫です。すぐに出るようにします」

Tオーナー 「それでもいいなら。しばらく使ってもらってもいいんだけどさぁー」

俺 「はい、それでお願いします。

 あと、車庫証明を申請したいので、書類に押印をお願いしたいんですが?」

Tオーナー 「それはかまわないよ」

俺 「では明日の午後イチに書類を準備して持ってきますので、宜しくお願いします」

Tオーナー 「明日は居ないかもしれないねー。

  実は親戚の叔父が老人ホームに入っているんだけど。具合が悪くなってさぁー。

  もしこのまま悪化したら、明日あたりはもうダメになっているかもしれないので、その時は俺も忙しくなるからさぁー」

俺 「そうなんですかー!! じゃあ連絡先を教えてもらえますか」

Tオーナー 「看板に書いてある番号に電話したらつながるさぁ」

俺 「分かりました。では明日13時頃来ますので宜しくお願いします」

俺は喜んでルンルン気分でスクーターをとばし作業所へ戻った。

 

作業を手伝いながらYさんに聞いてみた。

俺 「Yさん、佐良浜にある理髪店Gを知ってますか?」

Yさん 「あー、知ってるけど」

俺 「そこのオーナーが持っているAコープ対面の駐車場を借りれる事になりました」

Yさん 「あー、Aコープの対面の。家を壊していたのは知ってるけど、駐車場にしたんだ」 Yさんは昔電気工事や大工もやっていたので、色々と島の情報に詳しいようだ。

俺 「はい、そうなんです」

Yさん 「あそこに住んでいたTは俺の高校の後輩さぁー」

俺 「ほー、お知り合いなんですね」

Yさん 「知り合いという程でもないけど。まあな」

俺 「なるほど!」

 

その夜、警察署でもらった車庫証明申請資料を自宅で記述・完成させた。

 

28日、午前中の作業が終わった後定食屋で昼食をとって、13時に理髪店Gに到着した。

途中「もし電気が点いてなかったら、おじさんが危篤なんだろな。そうすると明日の申請期限に間に合わないかもな。その場合どうしようか?」と心配だったが、幸い中に人がいるみたいだ。

 

俺 「こんにちは、昨日駐車場のお願いにきましたものです。今日はおられるんですね。良かったです」

Tオーナー 「はい、今日もいますよー」 なんだか昨日より機嫌がよさそうだ。

俺 「車庫証明の申請書に印鑑をお願いしたいんですが。これです」

Tオーナー 「はいはい、じゃあ、書きましょうかねー」

俺 「ありがとうございます。これで車庫証明の申請に行けます」

Tオーナー 「僕も昔車庫証明を取るのに駐車場が無くて苦労したんだよねー。

  その時近くのプロパンガス会社Sの社長が駐車場を1つ貸してくれてねー。助かったのさぁー」

俺 「そうですか。

  それでは、家賃を納めますね」

Tオーナー 「領収書とかないし、金額とか覚えるの面倒だからね。

  代わりに、3ヶ月に1回お金を持ってきて、このカレンダーの4月1日の所に名前書いて行ってね」 この人もかなりアバウトな人かも。

俺 「了解です。今日は現金が少ないのでとりあえず1ヶ月分を置いていきますね」

Tオーナー 「じゃあ、残りは次でいいよ」

俺 「はい、残りは4月1日に持ってきます。

  では今から警察署に行ってきます」 1ヶ月分の家賃3000円を支払い店を出た。

Tオーナー 「はい、ご苦労様ー」

 

俺はすぐにスクーターで伊良部大橋を渡り、20分間走って宮古警察署に到着した。

 

 

俺 「すみません、車庫証明の申請をお願いします」

係員 「書類は準備できてますか?」 40代の女性が担当者だった。

俺 「はい、できてます」

係員 「ん-と、よさそうですね。

  じゃあ、この申請書4枚に印鑑を押してください」

俺 「はい、1,2,3,4と。

  押しました。これでいいですか?」 俺は急いでハンコを押した。

係員 「いやいや、そこは警察署長印を押す場所でしょ」

俺 「あー、間違えたー!」

係員 「じゃあ、この用紙に申請書をもう一度書き直してくださいね」

俺 「すみません、書き直します!」

 

もう1部4枚綴りの用紙をもらい、最初から書き直すはめになった。とほほ。

俺 「できました。これでいいでしょうか?」

係員 「はい、では申請費用2200円になります」

俺 「あっ、手持ちの4000円の内さっき3000円支払ったから、もう1000円しか残ってない。

  すみません、クレジットカード使えますか?」

係員 「現金のみです」 きっぱり!

俺 「そうですよね。この辺にATMありませんか?」

係員 「この先の信号の左側にコンビニがあります」

俺 「了解です。ではお金をおろしてきます」

係員 「では、書類を一旦お返ししますね」

 

俺は急いでスクーターでコンビニへ行き、現金を1万円下ろし、警察署に戻った。

 

俺 「2200円準備できました。申請をお願いします」

係員 「はい、では1週間後にできますので取りに来て下さい。

  その時に費用が550円かかりますので、予め準備してきて下さい」

俺 「えっ、費用は今2200円支払いましたよね?」

係員 「あれは申請費です。550円は交付費用です」

俺 「?? なんで一緒に2750円を支払う事にしないんだろ??」

係員 「・・・」 無言だった。

 

とにかく、申請期限には間に合った。これで10万円以下の罰金を科せられる恐れはなくなったぞー。(笑)

 

 

◆念願の沖縄ナンバー

 4月4日お昼休み、車で警察署へ移動し、無事「車庫証明書」を受け取った。そして、近くのコンビニで「住民票」を1部発行し、その足で運輸局に移動した。

 

 

宮古運輸事務所で関係書類を提出して予約してあった希望ナンバーの予約票を受け取った。

最後に「沖縄 39」を受け取り自分で取付け、封印をしてもらった。

 

 

住所変更後、苦節14日間!

今回駐車所問題ではさんざん振り回されたが、土壇場で「奇跡的に大逆転」する事ができた。

 

 

離島生活、しびれるぜ!