4月20日から俺は配送ドライバーのアルバイトをする事にした。

 

◆研修1日目:

午前11時にT社指定のIOモールの集荷場に集合した。

今回の研修の指導員Aさんは、30代後半、京都出身、東京でサラリーマン経験あり、T社での経験10ヶ月(その前に他社で1.5年)。痩せ型中背、生真面目な性格のようで色々と細かく教えてくれた。車はAさん自前の軽バンを使っていた。

 

全体スケジュールは、1日5回発着する。

第1便:12時便、11:45出発-13:30帰着。

第2便:14時便、13:45出発-15:30帰着。

第3便:16時便、15:45出発-17:30帰着。

第4便:18時便、17:45出発-21:30帰着。

第5便:20時便、17:45出発-21:30帰着。(配送時間が20-21時に指定されている荷物)

 

作業の手順は、

0. 入場:守衛場で社名・名前・入場時間を記入して、入場する。

 

1. ログイン:専用端末(iPhone)と携帯型レシートプリンターをON。自分のIDでログインする。

  専用の送受信機に差し込み、サーバーから代引きデータをダウンロードする。

 

2. 配送リストの受取り:便毎の「配送先リスト」を当日のリーダーから受領する。(1便で4~5軒、1軒で1~7ボックス)

 

3. 荷出し:積込室から、ボックスが積まれたパレット(台車)4~5台をチームで集荷場へ移動させる。(1チームは6~7人)。(ボックスへの荷物の詰め込みはピッキング担当者が実施する)

 

4. 積込み:各ドライバーが「配送先リスト」に基づき、パレットから自分の担当ボックス或いはケースをピックアップして自分の軽バンに積込む。

  

この時に配送順により積込み位置をアレンジする。(1台で10~18ボックス)。この時「誤配送防止リスト」に宛先名と個数を記述し、間違った荷を積んでいない事を確認する。

 

5. ピン立て:専用端末の専用アプリに表示されている宛先から自分の担当する宛先を選び、端末に登録する。これにより専用アプリの地図画面で配送先にピンが立ち、配送ルートが表示される。この時「作業日報」に積込み数量と出発時間を記入する。

 

6. 移動:専用アプリの地図を参考に、軽バンを運転し各配送先へ移動する。(ドライバーによってはこの専用アプリの地図では不満足なので、ゼンリン社のカーゴ専用有料アプリを使用する人もいる)

 

7. 配達:各配送先を訪問し、荷物をボックスから出して手渡す。ボックスに入っているA4クリアファイルから納品書とパンフレットを出し、手渡しする。重量物(水・ビール等)の場合は玄関内に持って入る。(お客様によっては、対面を嫌い「玄関先に置く」等の条件が指定されている)。

 

8. 代引き:ネットで発注時にクレジットカード決済をせずに「代引き」を指定したお客様には玄関で代引き決済を実施する。完了後に専用携帯型プリンターでレシートを印字し「配送リスト」に貼り付ける。(1便に1人位の割合。釣銭はドライバーは自分で準備する)

 

9. 回収:ボックスは車に持ち帰る。保冷バッグが入っている場合は冷蔵用や冷凍用の保冷剤を保冷バッグから抜取り1ヶ所にまとめて持ち帰る。

 

10. 帰社:各便の配送が完了したら、軽バンを移動させ集荷場に帰る。

 

11. 荷戻し:配達完了済のボックスや保冷バッグをパレットに積込み、積込室へ戻す。

 

12. 配送リストの返却:「配送リスト」を指定のトレーに返却する。代引きがあった「配送リスト」はリーダーによる金額集計の為、別の指定トレーに戻す。

 

13. 繰り返し:次の便の為、上記2~12を繰り返す。

 

14. ログアウト:第5便が完了したら、専用端末(iPhone)を専用の送受信機に差し込み、サーバーへ代引きデータをアップロード、完了したら電源をOFFする。プリンターは電源OFF後、充電ケーブルを差し込んでおく。

 

0. 出場:守衛室で出場時間を記入して、出場する。

 

 

◆20日の配送状況:

第1便~第3便は、各5軒でボックスも1~2個と比較的軽めの作業だった。Aさんの説明では「今日は研修生に説明しながら作業をすると時間がかかるので、リーダーが軽めに配分してくれたのだろう」との事だった。

しかし、第4便で問題が発生した。

 

 

◆配送ドライバー泣かせの団地:

第4便の3軒を配送完了後、残り2軒は「洛西ニュータウン」という団地のお客様だった。

A指導員 「ここの団地は結構大変なんですよ。

    まず、団地内にカーゴ車が入れないので、周囲の道路に車を停めて台車で各棟の入口迄運ぶんです。

    おや、ヤマトさんの車が出て来た。入れるようになったんや」

猪田  「??どうしてヤマトは入れて、我々はダメなんですか?」

A指導員 「カーゴ用駐車スペースは有料契約なので、ゆうびん局等の大口業者は年間契約をしているようですが、ヤマトさんも有料の契約をされたんや、ええなー」

猪田  「なるほど」

A指導員 「じゃあ、荷物はボックスが2つとケースが2つなので、台車2台に分けて積込みましょう」

猪田  「はい、了解です」

2台の台車を押して2人で指定の第18棟のエレベータ前迄約100m移動した。

A指導員 「ここからエレベータに乗ります」

猪田  「はい、了解です。何階ですか?」

A指導員 「8階です」

猪田  「?? ボタンが1・3・7階の3つしかありませんが・・・」

A指導員 「そうなんです。古い団地のエレベータは途中止まらない階があるんでよ。トホホ」

猪田  「えーっ。そうすると??」

A指導員 「7階で降りて、後は階段ですね」

猪田  「えーっ。折角エレベータあるのに・・・。

    エレベーター作るなら各階に止まってくれよー。トホホ」

 

結局、7階で降りて階段まで台車で移動し、そこに台車をおいてボックスやケースを担いで8階迄駆け上がった。ボックス1個の重さは5kg、水のケースは12kgなので、合計34kgを2人で持つ事になった。

計4個の荷物が8階迄あがったので、お客様の部屋のチャイムを鳴らした。

A指導員 「IOネットです」

お客様 「はーい」 ドアが開いて、30代の女性が出て来た。入口にはベビーカーが置いてあった。

A指導員 「こちらが、お荷物です」

お客様 「はい、どうも」

猪田  「代引き料金が合計4,487円になります」

お客様 「クレジットカード使えますか?」

A指導員 「いいえ。代引きの場合は現金のみとなっております」

お客様 「そうなんや。じゃあ、1万円でお願いします」

A指導員 「はい、ではお釣りが5,513円になります」

猪田  「ありがとうございます」

 

荷を渡し終わって1階に着く頃に左の膝が少し痛みを感じて、引きずって歩いていた。

A指導員 「猪田さん、膝どうかしたんですか?」

猪田  「はい2週間位前に左膝を捻挫したんですが、そこがまた痛くなってきました」

A指導員 「大丈夫ですか?」

猪田  「多分・・・」

A指導員 「今日は代引きで1万円札のお客様が多くて、もうそろそろ釣銭が危ないかも、ですね」

猪田  「そうですか。代引きの時点で使えるクレジットカードがあるならば、最初からカード支払いにしてくれればいいのに。やれやれ」

 

 

◆問題発生:

最後の1軒は第4棟の5階だ。同じ団地内でも4棟迄はかなり遠いのでA指導員の判断で一旦車で回り込んで最寄りの道路まで移動した。

この間に猪田は念の為に持ってきたバンテリン膝用サポータを車内で左膝に巻いておいた。

 

A指導員 「ここは7個ですね、ボックスが3個でケースが4個です。台車2台でギリギリ乗りますね」

猪田  「1軒の家で7個ですか・・・」

A指導員 「団地の住人さんは高齢者が多くて、自分で運べない重い物を宅配に依頼されるんですよ。じゃあ、行きましょう」

 

台車2台を2人で約100m押して、第4棟の入口に着いた。

A指導員 「あっ、4棟はエレベーター無しみたいですね。トホホ」

猪田  「えーっ!この荷物を全部5階迄担いで上げるんですか?? 1回では無理では?

    それに私は左膝の状態がドンドン悪くなっているようです」

A指導員 「そうですか、じゃあ猪田さんは無理せずにビールケース2個(10kg)をあげて下さい。私は水ケースを2個(24kg)行きます」

猪田  「はい、ゆっくり上がります」 階段を登る時に膝の痛みがひどくなってきたが、膝をかばいながらなんとか5階に到着できた。

A指導員 「残りのボックスは私が上げますので。猪田さんは5階で待っていてくださいね」

猪田  「はい、すみません」

こうしてようやく計7個の荷物が5階迄あがった。

 

お客様の部屋のチャイムを鳴らした。

A指導員 「IOネットです」

お客様 「はーい」 ドアが開いて、60代の女性がジャージ姿で出て来た。

A指導員 「IOネットです。お荷物のお届けです」 肩で息をしながら汗だらけで説明する。

お客様 「まあ、

    お父さん、2人で来はったでー。やっぱり多すぎたやんかー」 バツが悪い。

部屋の奥から「おー、そうか」という男性の声が聞こえた。

お客様 「大変やねー。

    あー、これ12本 x2ケース本で来たんや。24本頼んだから、24本x1ケースで来るのかと思ったのにー・・・」 無茶をさせてバツが悪いので話を横に反らしている。

A指導員 「では、お水やビールは重いので中に運びましょうか?」

お客様 「そやね、お願いしますわ」 恐縮している。

A指導員 「それでは、代引き金額が10,482円になります。

お客様 「あー、細かいの無いから1万5千円でええかしら」

A指導員 「えー。できれば1万500円でお願いします」

お客様 「あっ、1万と482円あったわ。はい」

A指導員 「では、ちょうど頂きます。ありがとうございます」

お客様 「ご苦労様です」

 

荷物を渡しおわり、空のボックスを持って階段を下りる時には猪田は左膝は全く曲げれない状態になっていて、いつもの2倍位の時間がかかった。1階で台車を回収し漸く車に戻ったら19:45になっていた。周りはすっかり夜だ。

次の配達先迄車で移動を開始した。

 

A指導員 「あとは第5便が1軒で『20~21時指定』なんですが、猪田さん大丈夫ですか?」

猪田  「いやー、もう階段は無理ですね。トホホ」

A指導員 「そうですか。じゃあ、5分早いですがお客様に電話で確認してみますね。

  もしもし、IOネットです。20時のお届けがありますが、もしご都合が良ければ今から持って行ってよいでしょうか?

  はい、分かりました、では5分後に到着します。

  お客様の確認が取れたので、5分前に配送します」

猪田  「そうですか。よかったですね」

A指導員 「このお客様は、昼間指定時間に不在で他のドライバーが持ち帰ったので、恐縮しておられるみたいですね」

猪田  「なるほど」

 

こうして第5便の1軒がおわり、20:25に集荷場に戻った。

猪田は左足を引きずりながら、ボックスやパレットの片付けを手伝い、本日の研修は完了した。

 

A指導員 「猪田さん、膝はどうですか?」

猪田  「どんどん悪化してます。すみませんが、明日朝一で近所の病院へ行き痛み止めの注射をしてもらいますので、明日の研修2日間は延期にして欲しいです」

A指導員 「そうですか。分かりました。念のためY社長には猪田さんからも『本日の研修の結果』を報告しておいて下さいね。

猪田  「はい、了解しました。Y社長に連絡をいれます」

A指導員 「お疲れ様でした」

猪田  「本日はありがとうございました」

 

20:35猪田は左足を引きずって、IOモールの3階のフードコートに上がったらY社長からLineが来た。

Y社長 「研修お疲れ様でした。A君から報告があり、膝が少し心配ですね」

猪田  「お疲れ様です。Aさんに色々と丁寧に指導頂いたので順調に業務を理解できました。

膝は、2週間前に捻挫したのが本日ぶり返したようです。明日朝一で近くの整形外科で痛み止めの注射を打ってもらう予定です。

いずれにしても、受診の結果をY社長とAさんにご報告させて頂きます。宜しくお願いします」

LINEの返信を終えた頃、丸亀製麺やとん一は既に営業を終了していたので、まだ開いていたKFCで軽く夕食を済ませ、バイクで帰宅した。

痛みがひどいので、軽くお風呂で汗をながして早めに寝た。

 

研修初日でやらかしてしまったが、明日は朝一で病院だ。やれやれだぜ。