森博嗣 / 詩的私的ジャック
犀川がシビックの助手席のドアを開けると、萌絵は倒れるようにシートに座った。犀川は運転席に回って乗り込む。萌絵は目を瞑っていた。
少し、彼女の顔を覗き込む。小学生のときの面影がまだ残っている。
「何か、私の顔についてますかぁ?」萌絵が目を閉じたままで言った。
「ああ、自分で自分がわかりません、って書いてあるね」犀川はそう言うと、エンジンをかけた。
「どうして、そんなに私のことがわかるの?」萌絵は目を開けた。「そんなに、わかるなら、どうして・・・・・・?」
「君が言わないからだよ」犀川は、両サイドのウインドウを下げる。「相手の思考を楽観的に期待している状況・・・・・・、これを、甘えている、というんだ。いいかい、気持ちなんて伝わらない。伝えたいものは、言葉で言いなさい。それが、どんなに難しくても、それ意外に方法はない」
森博嗣 S&Mシリーズ 第4作
『 詩的私的ジャック Jack the Poetical Private 』より