何処か遠くへ | ☆今宵、夜のカフェテラスで

何処か遠くへ

遠くの空


旅はいいよね。


せっかくの今度の連休、ボーナスも出たことだし、
何処か遠くへ行きたい気分。


行くなら今まで行ったところのない場所がいいな。


見知らぬ街で、ふらりと地元の居酒屋に飛び込んで、
その土地の料理と美味い地酒を堪能したい。


しばらく飲んでいると、


「あんちゃん、飲みっぷりがいいね~」


と、お店の常連らしき年配の方々に声を掛けられます。
すぐに意気投合して、色々ご馳走してもらっちゃいます。


ワイワイ喋ってガンガン飲んで、一通りお店の
お客さんをべろべろにさせてから(つぶしてから)、


「ご馳走さまでした。楽しかったです」


と言って、僕はしっかりとした足取りでお店を後にします。


店を出ると、夜風が気持ちよくて、潮の香りに導かれるように、
僕は自然と海を目指します。


ほろ酔い加減でいい気分の僕は、防波堤の先でポケットから
ブルース・ハープ(ハーモニカ)を取り出して吹き始めます。


曲はエリック・サティのジムノペディ。
もともとピアノ曲ですが、僕がハープ用にアレンジ。


口元でハープを大事に両手で包むようにして、僕は
演奏します。ときおりベント、ビブラート、トレモロを
使って、遠くの海へ届くようにゆったりと。
静かな波の音が伴奏です。


僕が1番から3番まで吹き終えると、突然うしろから拍手が
聞こえてきます。


僕が驚いて振り返ると、そこにはひとりの女性が立って
います。


月明かりでも、彼女が優しく微笑んでいるのが僕には
わかります。


「この街は初めて?」


僕はいつかの夢で見た、懐かしい声を聞いた気がします。


               *


って、断言しますが、そんなことは絶対起こりません。
そもそも僕はブルース・ハープなんて吹けません。
(この後いくらでも話を続けられますが、やめときます)


今まで一人旅をして、女性に声を掛けられたのは一度だけ。


大学1年の夏休みにリック背負って日本中をまわろうとした
仙台の駅で。それも宗教の勧誘でした。(旅は二日で断念)


ひとり旅も好きだけど、やっぱり旅行は隣に誰かいるほうが
いいかな。


素敵な風景とか美味しい料理とかって、一緒の相手によって
何倍も感じ方が膨れ上がってくるから。


たとえ窓際の席に座れなくともね。