あんなに待っていたコンサートだったのに
出かけるのは酷く億劫だった。
しかし、葉加瀬太郎の演奏はそんな気持ちを一瞬で吹き飛ばした。
軽石のように乾ききってしまっていた心に沁み込み、
そして溢れた。
特にアンコールの喜多郎のシルクロードは
個人的にも非常に思い入れが強い曲でもあり別格だった。
中学の文化祭で数人の友人と演奏した曲だ、
まだ音楽を始めたばかりで、見えない敵と戦っていた頃だ。
その友人の一人はホテルに就職し、我々夫婦の結婚式・披露宴を支えてくれた。
しかし、その後、私と同じ病に犯され、独りでひっそりと別の世界に旅立ってしまった。
そんないろいろな思いが一気に押し寄せてきて、涙が止まらなかった。
声楽と器楽、アマとプロ、土俵もレベルも全然違うけれど、
同じ音楽をやるものとして、観客に感動を与えられる素晴らしさを
改めて気付かされた。
今夜も眠れないけれど、昨日の眠れない自分とは
違う自分がここに入る気がする。